第9章で述べたように、わが国の対策型マンモグラフィ検診においては現在40歳以上が対象となっています。これは平均的リスクの日本人女性の乳がん罹患が40歳を超え増加してくることが大きな要因です。日本より乳がん罹患が多いにもかかわらず、米国予防医学専門委員会(USPreventiveServicesTaskForce;USPSTF)での推奨は、2023年9月時点において50〜74歳までの2年に1度のマンモグラフィ検診が推奨グレードBとして示されています1)。40歳代の女性に対しては、乳がんによる死亡リスクを低下させる可能性を示す一方で、回避できる死亡数がそれより高齢の女性に比較して少なく、偽陽性およびそれに続く不要な生検が多くなるという不利益が多くなることを説明しています。また過剰診断にも触れており、利益と不利益のバランス(ネットベネフィット)の点から推奨グレードはC、「検診受診の決定は個人的な決定でなければならない」としています。ただし、現在USPSTFにおいても40歳代の検診を推奨する草案が完成しており、今後が注目されます。日本では40歳以上の検診受診推奨は現在変更の予定はありませんが、少なくとも受診者への検診の利益、不利益に関する正確な情報提供は必要であろうと筆者は考えます。2)30歳代の乳がん検診を廃止1282000年に日本でマンモグラフィ検診が開始された時点で、30歳代の検診は廃止されることとなりました。平均的リスクの日本人女性の乳がん罹患が、それ以上の年齢層に比較して少なく、人口動態統計(厚生労働省大臣官房統計情報部)のデータを用いた2019年の国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」によれば、30歳代前半の乳がんの罹患は933人(全年齢の0.96%)、30歳代後半では2,455人(全年齢の2.5%)となっています2)。対策型検診としては、罹患が多い対象群に行うことが必要であり、不利益ばかりが増加することが懸念され廃止となったわけです。これを補うかたちで、ブレスト・アウェアネスの概念が取り入れられました3)。若い世代にも、ぜひブレスト・アウェアネスの実践をお願いしたいところです(第12章参照)。 1 検診の対象年齢1)現在の推奨年齢
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