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viii ヘルニア手術は外科医にとっての登竜門であり,一度は必ずメスを握る手術である。その歴史は古く,外科学の歴史そのものとさえ言われている。19世紀以降,多くのレジェンド外科医たちにより様々な組織縫合法が考案されたが,その後人工物を用いた修復術が始まると,従来の組織縫合法とともに多くの術式が乱立することとなり,何が適切な手術なのかという点において混乱を招いた時期があったのは事実である。 そのような状況の中で,ヘルニア診療を学問的に議論し,正しい方向性を導こうとする動きが生まれ,欧州,米国に続き我が国でも2003年日本ヘルニア研究会が,初代理事長故冲永功太先生のリーダーシップのもと発足し,2008年日本ヘルニア学会へ移行した。この時期に,冲永先生より鼠径部ヘルニア分類の作成と鼠径部ヘルニア診療ガイドラインの作成が提唱された。2009年欧州では統一したガイドラインがヨーロッパヘルニア学会(EHS)から公表されたが,我が国の実情にそぐわない部分もあり,第2代理事長である柵瀨信太郎先生をガイドライン委員長として作成を開始した。その後,2015年日本ヘルニア学会より「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015」が発刊された。このガイドラインは,鼠径ヘルニアだけでなく,大腿ヘルニアや小児鼠径ヘルニアを内容に含めたものであり,すべての年齢を対象とした世界初のガイドラインであった。 その後,EHSが主導した“International guidelines for groin hernia management”が2018年に発表され,その後も更新されていく状況の中,我が国のガイドラインをどうしていくかの議論がなされたが,第3代理事長である早川哲史先生のもと,やはり我が国の実情に合ったガイドラインの作成が必要であるとの結論に至り,第2版の作成が開始された。当初は筆者がガイドライン委員長を務めたが,その後井谷史嗣先生に引き継がれ完成に至った。この場をお借りして,委員長の井谷史嗣先生と前回に引き続き最大級の貢献をされた嶋田元先生をはじめ作成に尽力していただいたすべての外科医の皆様に感謝申し上げたい。 最後に,このガイドラインを読まれる先生方にぜひお伝えしたいことがある。ガイドラインはあくまで現時点で最も評価されている診療指針に過ぎない。外科学の中で,“minor surgery”と言われているヘルニア診療でさえ日進月歩であり,常に進化している。このガイドラインを「入口」として用い,0.1%の改善を求めて日々の診療に当たっていただきたい。特に,若手外科医の先生方は,最も身近なヘルニア診療を通じて学問的手法を学び,次のステップに進み,外科学の進歩に貢献してほしいと願っている。決してガイドラインを「出口」として使わないことを切望する。一般社団法人 日本ヘルニア学会理事長 蜂須賀 丈博 発刊にあたって

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