CQ1:大腸腺腫性ポリポーシス患者に対して遺伝学的検査を行うべきか?エビデンスレベル:C,推奨度:1,合意率:88.9%大腸腺腫性ポリポーシス患者では,発端者の診断・治療法選択やサーベイランスの参考,血縁者の診断の観点から遺伝学的検査を実施することを強く推奨する。 大腸腺腫性ポリポーシス患者に対する遺伝学的検査について,診療ガイドライン8編,症例集積研究7編,横断的研究1編を抽出した。 FAP患者は特徴的な臨床所見として大腸に腺腫性ポリポーシスが発生するため,遺伝学的検査が実施されない場合が多かった。しかし,FAPでは原因遺伝子であるAPCの病的バリアントの部位(遺伝型)が,大腸腺腫密度や大腸外随伴病変(胃底腺ポリポーシス,十二指腸腺腫,骨腫,デスモイド腫瘍,先天性網膜色素上皮肥大など)の発生(表現型)と関連すると報告されている1—4)。そのため,遺伝型はサーベイランス,予防的大腸切除術の時期,手術術式の選択,術後デスモイド腫瘍発生の予測などの参考となる。なお,FAP患者の20~25%はde novo発生であり,腺腫性ポリポーシスの家族歴がない場合でもAPCに病的バリアントを持つ者がいる5)。 一方,発端者と同じ病的バリアントを持つ血縁者にも大腸に腺腫性ポリポーシスが発生するが,大腸腺腫密度が低い家系では成人以降でも大腸腺腫が目立たないことがある。また,大腸腺腫密度が高く,比較的若年から大腸に腺腫性ポリポーシスが発生する家系であっても,恐怖心や羞恥心などから下部消化管内視鏡検査を受けることに抵抗がある者がいる。このような血縁者に対しては,下部消化管内視鏡検査に代わり遺伝学的検査によってFAPの診断を行うことができる。その結果,発端者と同じ病的バリアントが血縁者に認められれば,サーベイランスの介入を開始する6)。 臨床的にFAPが疑われてもAPCに病的バリアントが検出されない場合がある。欧米からの報告では,APCに病的バリアントが検出されるのは100個以上の腺腫性ポリポーシス患者でも60~70%であり,20~99個の腺腫性ポリポーシス患者ではAPCの病的バリアントを認めたのは10%に過ぎず,7%はMUTYH関連ポリポーシスで,10~19個の腺腫性ポリポーシス患者ではそれぞれ5%と4%とさらに検出率は低率であった7)。本邦からの報告でも,大腸に10個以上の腺腫性ポリープを認める患者123名を対象とした次世代シークエンサーによる解析でAPCに病的バリアントが検出できたのは,密生型腺腫性ポリポーシスの93%,非密生型腺腫性ポリポーシスの72%,100個未満の腺腫性ポリポーシス患者の17%であり,APC病的バリアントの検出率は大腸腺腫密度と関連していた8)。一方,大腸腺腫性ポリポーシスの7.3~20%は体細胞APCモザイク(Ⅱ—2—2:鑑別を要する疾患・病態[p. 45])と報告されている8,9)。体細胞APCモザイクでは腺腫性ポリポーシスが大腸の一部に限局していたり関連疾患が併存していなかったりと典型的な表現型を示さないことがある。こ
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