サイドメモⅢ—186 各論 Ⅲ.リンチ症候群■Germline epimutation リンチ症候群の一部で,腫瘍発生にエピミューテーション(epimutation)が関与していることが明らかにされた。エピミューテーションとは,塩基配列には変化がないが,DNAのメチル化異常など遺伝子発現に関わる分子の修飾により遺伝子発現に変化をもたらす現象である。まれではあるが,生殖細胞系列のMLH1プロモーター領域異常メチル化がリンチ症候群の原因になることが報告されている1)。●リンチ症候群患者に発生する大腸癌は散発性の大腸癌に比べ,1)若年発症,2)多発性(同時性,異時性)で,3)右側結腸に好発し,4)低分化腺癌の頻度が高い。また,腫瘍内リンパ球浸潤,髄様増殖,粘液癌・印環細胞癌様分化,Crohn様リンパ球反応などの病理組織学的特徴がある2—5)(Ⅲ—2—1—2:ミスマッチ修復(MMR)異常を示す大腸癌に特徴的な病理組織学的所見[p. 92])。●また,大腸癌以外に,子宮内膜癌をはじめ,さまざまな関連腫瘍が発生する(Ⅲ—1—3:関連腫瘍[p. 87])。Ⅲ‒1‒2‒1 原因遺伝子と遺伝形式●第2番染色体上のMSH2(2p21—p16),MSH6(2p16.3),EPCAM(2p21)●第3番染色体上のMLH1(3p22.2)●第7番染色体上のPMS2(7p22.1)●常染色体顕性遺伝(優性遺伝)●これらの原因遺伝子のいずれかに生殖細胞系列病的バリアントが同定された場合にリンチ症候群と診断される。Ⅲ‒1 概要●リンチ症候群は,DNAミスマッチ修復(mismatch repair:MMR)遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを主な原因とする常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患である(サイドメモⅢ—1:Germline epimutation)。MMR機構の破綻による特徴的な病理組織学的所見を示す大腸癌と子宮内膜癌を主徴とする。患者・血縁者内にさまざまな関連腫瘍が発生するため,サーベイランスや治療が必要となる。なお,診断は遺伝学的検査によってのみ実施されるが,2024年1月現在,本邦では保険適用外である。Ⅲ‒1‒1 臨床的特徴Ⅲ‒1‒2 原因遺伝子とがん化のメカニズム
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