20475T
2/14

 この度「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2024 年版」を刊行しました。 大腸癌研究会ではこれまでに「遺伝性大腸癌診療ガイドライン2012年版,2016年版,2020年版」を刊行してきました,本診療ガイドラインは家族性大腸腺腫症やリンチ症候群を適切に理解するためだけでなく,日常診療においても大いに役に立ってきました。ガイドライン作成に当たっては,日本における臨床のエビデンスを創出するために,家族性大腸癌委員会(現,遺伝性大腸癌委員会)で幾つかの多施設共同研究を行い,それらを英語論文として発表し,その成果を本ガイドラインに盛り込んできました。 2024年版の構成の大枠は,2020年版と同様に総論と各論に分かれ,各論はⅠ.遺伝性大腸癌の概要,Ⅱ.家族性大腸腺腫症,Ⅲ.リンチ症候群,となっていますが,総論ではClinical Question(CQ)を含めた診断および診療のアルゴリズムを記載することで,各論のCQの位置付けを明確化しました。各論Ⅰの遺伝性大腸癌の概要では,遺伝性腫瘍に対するマルチ遺伝子パネル検査の普及と技術的進歩に伴って,遺伝性大腸癌診断の主体が臨床情報や病理組織学的評価から遺伝学的検査にシフトしつつある現状を反映させ,腺腫性ポリポーシスや非ポリポーシスなどの様々な鑑別疾患の病態について追記しました。各論Ⅱの家族性大腸腺腫症では,我が国で2022年に保険収載されたIntensive downstaging pol-ypectomyや,本邦で提唱されたデスモイド腫瘍の新分類の記載を加えました。また,各論Ⅲのリンチ症候群では,免疫チェックポイント阻害剤のコンパニオン診断,あるいは包括的がんゲノムプロファイリング検査の結果からのリンチ症候群診断の流れを追記しました。日進月歩の診断モダリティーに,ガイドラインの記載がようやく追いつきました。リンチ症候群関連腫瘍の累積発生率については,本邦のデータも用いました。 CQは家族性大腸腺腫症,リンチ症候群でそれぞれ5項目となり,2020年版と比べ半減しましたが,今回の改定でCQから外れた内容は,既に確立された診療であるか,文献検索を行っても十分なデータが得られないものです。これらについては,全て各論の本文に移動しました。 本ガイドラインは,公聴会,パブリックコメント,家族性大腸腺腫症とリンチ症候群の2つの患者家族会,アドバイザー,そしてガイドライン評価委員会などから,多くの意見を取り入れ作成されました。外部評価の詳細は省略いたしましたが,評価委員会からはガイドライン全体の質を平均6.5点(最高7点,最低1点)と高評価されました。非常に質の高いガイドラインが作成されたと思います。遺伝性大腸癌患者のより適切な診療と治療に役立つものと確信しています。 2024年5月7日 大腸癌研究会会長味岡洋一ii はじめに

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る