疫学・予防 CQ 955Ⅱ目的とした研究も増加している2)〜5)。乳癌術後患者のさまざまな合併症に対し,有効な運動内容を検討することを目的としてLinらは,定量的システマティックレビューを行っている2)。有酸素運動,MLD,関節運動,レジスタンス運動が,疼痛(VAS),関節可動域,上肢機能(DASH),上肢の体積,リンパ浮腫の発症率,筋力の軽減や改善に有効かどうかメタアナリシスを行った。有酸素運動により,疼痛(5つの研究)は軽減していた。肩関節の伸展,内旋可動域,肩関節機能が改善,外転筋力の増強が認められた。リンパ浮腫については,4つの研究でMLDと有酸素運動の組み合わせによる上肢体積の評価を行っているが,メタアナリシスでは有意差を認めなかった。4つの研究で上肢の関節運動による上肢リンパ浮腫の発生頻度の報告(運動群n=338,対照群n=254)があり,メタアナリシスによりリスク低減(RR0.343,95%CI0.207-0.569)が示されていた。レジスタンス運動(2つの研究),有酸素運動(4つの研究)ともに(運動群n=259,対照群n=184),上肢機能の改善を認めた(レジスタンス運動MD−4.094,95%CI−7.901-−0.286,有酸素運動MD−5.231,95%CI−8.028-−2.434)。術後からリンパ浮腫発症予防のために上肢の関節運動を推奨すべきであるが,運動の種類についてはさらに検証が必要であるとしている。 この後Linらは,自ら乳癌術後患者に対して3種類の運動(関節運動体操のみ,+有酸素運動,+レジスタンス運動)を行うことでリンパ浮腫発症予防効果,疼痛やQOLに対する効果の検証と,集中的な経過観察を行うことの効果を検証するため単盲検ランダム化比較試験を行った3)。4つのグループ〔G0:関節運動体操(JME)のみ,G1:JME+intensive follow-up(IF),G2:JME+有酸素運動(AE)+IF,G3:JME+レジスタンス運動(PRE)+IF〕に分けた。運動は術後可及的に開始し,6カ月間行った。関節運動体操は1日3回,有酸素運動は30分間を週に5回行い,レジスタンス運動は1日2〜3回行い,負荷を少しずつ上げていく。Intensive follow-upは,術後1カ月は週1回,2〜3カ月は週2回,4〜6カ月は月1回のフォローアップを行った。また,WeChatを用いて毎日運動の状況をチェックし,FACT-B,NRS,relative volume change(RVC)について評価した。評価は,ベースライン,3カ月後,6カ月後に行った。192人の患者でプログラムの完遂が確認された。QOLは全グループで経時的に改善されたが,G3では他のグループに比べ有意に経時的な改善効果が認められた。疼痛についてはG2で他のグループに比べ有意に経時的な改善効果を認めた。リンパ浮腫の発症については,G0,G1に比べ,G2,G3で有意に抑えられていた。The American College of Sports Medicine(ACSM)のガイドラインではレジスタンス運動を推奨しており,有酸素運動についてはエビデンスが十分でないとしている6)。一方,Linらの研究でも術後3カ月,6カ月の時点ではレジスタンス運動群(G3)のほうが有酸素運動群(G2)に比べ,発症率は低い傾向にあった。 婦人科癌術後に生じる下肢リンパ浮腫について,complex decongestive therapy(CDT)として圧迫療法と運動療法を組み合わせた報告が多い現状がある7)8)。リンパ浮腫に対するCDTの予防効果は推奨すべき結果であるが,これらの報告から運動療法単独の効果については言及できない。運動療法単独の報告では,子宮頸癌術後患者(24人)を対象として6カ月間にわたる筋力トレーニングプログラムを行った先行研究がある9)。ほとんどの参加者は75%以上のプログラム順守率で,リンパ浮腫関連症状も徐々に改善し,下肢体積も開始後減少した後そのままの値で推移していた。
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