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78 Ⅲ.診断・治療 Andersenらは,乳癌に伴うリンパ浮腫を有する女性患者42人を2群に分け,標準療法群は弾性スリーブの装着,スキンケア,運動療法を行い,治療群は標準療法にリンパドレナージ(MLDを2週間に8回受け,自宅で毎日SLDを行う)を追加することによりリンパドレナージの効果を検討した1)。結果は,両群ともに浮腫の軽減はみられたが,治療群間には,有意差がなかった。 Gradalskiらも,乳癌治療後リンパ浮腫の51人を,MLDを含む複合的治療を施行した群(25人)とMLDを含まない複合的治療を施行した群(26人)に分け,26週間後の治療効果を前向きに検証した2)。その結果,MLDの上乗せ効果はみられなかった。 De Vriezeらは細胞外水分量のみでなく皮膚弾力性も調査した。乳癌関連リンパ浮腫患者194人に対し,教育,スキンケア,圧迫,運動を行う通常群に蛍光法を使用したMLD,あるいは通常のMLD,プラセボのMLDを追加した場合の筋膜上のリンパ液の集積と皮膚弾力性の変化を検証した.その結果,細胞外水分量はどの群でも減少したが,群間で有意差はなかった。SkinFibroMeterで行った皮膚の弾力を調べる検査では,3群とも改善したが,群間の有意差はなかった3)。 Senらは,乳癌関連リンパ浮腫患者54人を,多層包帯法,運動,MLDを行う群27人,通常群(多層包帯法+運動)27人に分け,各群の上肢の体積,体積変化率,Quick-DASH, Lymph-ICFの変化を検証した。その結果,両群で体積変化率は有意に減少したが,2群間で有意差はなかった4)。 以上の文献より,多層包帯法が併用されているためMLDの有無にかかわらず,体積の減少効果があるが,MLDの上乗せ効果はなかったと推察される。 一方で,MLDの上乗せ効果を示す報告もある。2017年にShaoらは,乳癌術後のリンパ浮腫に対する圧迫療法にMLDを追加する効果について,システマティックレビューを行った5)。“lymphedema” と “lymphoedema” というキーワードで1990年から2015年までの報告から抽出された732 編の論文中,評価し得る4編があった。結果として,圧迫療法にMLDを追加する効果は統計学的に認められたと報告している。 また,McNeelyらは,乳癌患者50人を4週間のMLD/CB(compression bandage)併用群とCB単独群にランダムに分けて治療効果を検討した。4週間で両群とも有意に体積が減少したが,軽度リンパ浮腫ではMLD/CB併用群のほうが有意に体積が減少したと報告している6)。 Qiaoらは,4つの電子データベースから乳癌関連リンパ浮腫に対するMLDの有無でトライアルを比較した。四肢の容積の変化を含み,治療の回数と期間についてもサブグループ解析されている8編をまとめた。対象患者457人の解析では,MLDを受けた群と受けていない群を比較すると,MLDは全体として乳癌関連リンパ浮腫の上肢の体積を減少させなかった。しかし,サブグループ解析では20回を超える治療あるいは2週間以上の治療を行うと,有意にMLDを含む群で体積の減少がみられたと報告している7)。 MLDに関しては,リンパ浮腫の重症度や治療回数,期間などによる効果の違いがあり,施行する対象を選択して適切な頻度や期間を検討することにより,効果を発揮できる可能性があると考えられる。 次にSLDに関する論文を紹介する。Sitziaらは,MLD群13人とSLD群15人でその効果を

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