CQ 12:直腸癌に対するTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)は推奨されるか?直腸癌に対するTNTは行わないことを弱く推奨する。(推奨度2・エビデンスレベルC,合意率:70%) TNTとは,局所制御は改善するが,遠隔転移の抑制や予後改善効果が示されていない術前化学放射線療法(CRT:chemoradiotherapy)の弱点を補完するため,忍容性の低い術後補助化学療法に代わり全身薬物療法を術前治療に組み込んだ治療戦略である。全身薬物療法を,術前照射前に行うinduction chemotherapy(INCT),照射後に手術までの待機期間に行うconsolidation chemotherapy(CNCT)の開発が行われてきたが,照射法(long course CRT,5×5 Gy短期照射(SCRT)),薬物療法のレジメンや期間にも一定のコンセンサスが得られていないのが現状である。<TNT(INCT/CNCT)vs. CRT> TNTとCRTを無作為化比較した試験が,いくつか報告されている1‒6)。有効性に関して,病理学的完全奏効(pCR)率については,RAPIDO試験(28% vs. 14%)4),PRODIGE23試験(28% vs. 12%)3)では,pCR率の有意な向上が報告しているが,有意差なしとする報告もある。一方,手術症例でのR0切除率が有意に改善したとする報告はない。局所再発率については有意に改善したとする報告はない一方,RAPIDO試験の最新の報告では,手術症例における5年局所再発率はTNT群で高く(12% vs. 8%),その多くは術中穿孔をきたした症例であったとしている6)。RAPIDO試験5),PRODIGE23試験3)では遠隔転移再発率はそれぞれ(TNT群vs CRT群),23% vs. 30%(5年),17% vs. 25%(3年),無病生存率については72% vs. 66%(5年),76% vs. 69%(3年)で有意な改善を報告しているが,有意差なしとする試験の報告もある。一方,5年以上経過観察を行ったうえで,全生存率(OS)が改善したとする報告はない。 毒性に関しては,CRTに薬物療法を加えることで,毒性は増すとする報告が多いが,GCR‒3試験では,術後補助化学療法と比較して,術前投与では投与量を保ちつつ,薬物療法の毒性(G3/4)が低かったと報告している(19% vs. 54%)1)。 これらのランダム化試験を含む3つのCRTとTNTを比較したメタ解析の結果では,いずれもTNTで高いpCR率が得られているものの,無病生存率(DFS),OSに関しては一貫した結果が得られておらず議論の残るところである10‒12)。<INCT(全身薬物療法+long course CRT)vs. CNCT(long course CRT+全身薬物療法)> CAO/ARO/AIO‒12試験は,ドイツで行われたlong course CRTに3サイクルのFOLFOXを加えたINCTおよびCNCTの有効性を比較した試験である7,8)。CR率はCNCT群で有意に高く(21% vs. 28%),無憎悪生存率,毒性,QOLには差がなく,臓器温存を重要視するならばCNCTが推奨されると結論づけている。また,CAO/ARO/AIO‒04試験との統合解析では,long course CRTに対するTNTの全生存率への上乗せ効果はなく,TNTは臓器温存を目指す一部の患者にとっての選択肢だと結論付けている13)。OPRA試験は,米国で行われたlong course CRTにFOLFOXまたはCAPOXを加えたINCTとCNCTの有効性をヒストリカルコントロールと比較した試験である9)。主評価項目であるDFSはコントロールと比100 Clinical Questions
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