I.組織分類の方針70 4. 病理診断 肺癌学会組織分類(以下,規約分類)は本邦の独自分類として版を重ねたが,2003年刊行の第6版からはWHO分類に準拠する立場をとり,第6版,7版は1999年WHO刊行の「肺および胸膜腫瘍分類」(WHO第3版)に準拠した。これにより従来腺扁平上皮癌においていずれかの成分が20%以上としていた定義が10%に変更されている。2004年WHOが刊行した「病理と遺伝子;肺,胸膜,胸腺および心臓の腫瘍」では,組織分類の改訂はないものの,従来の病理形態学的所見にとどまらず,遺伝子,さらには臨床所見も加味したものであった。16年ぶりの改訂となった2015年刊行の第4版「肺,胸膜,胸腺および心臓腫瘍のWHO分類」(WHO第4版)では,主要な組織型の枠組みや定義の変更を含む大改訂がなされ,特に腺癌は組織型のみならず病期(pT因子)にも関連する変更がなされた。これは2011年にJournal of Thoracic Oncology(JTO)誌に発表されたIASLC/ATS/ERSの腺癌分類を導入したもので,革新的な肺癌薬物治療の進歩,分子診断や高分解能CTの普及を背景に,肺癌の診断・治療に携わるすべての診療科や分子生物学の知見を集約した「学際的腺癌分類」とされている1)。また,WHO第4版では同時にJTO誌に発表された生検・細胞診の診断アルゴリズムや用語を引用し2),肺癌の術前診断を取り扱ったことも特筆すべき点である。WHO第5版は2021年に刊行された。ここではシリーズ全体に適応されたessential diag-nostic criteria,desirable diagnostic criteriaなどのフォーマットが統一されたが,いくつかの新しい疾患の追加などにとどまっている。日本肺癌学会病理委員会では,第5版の発表後,「肺癌取扱い規約第9版」の改訂に先立ち,新WHO分類に準拠した病理組織分類を発表し3),日本肺癌学会第62回学術集会に合わせた2021年11月26日に適応することをホームページで依頼している。 今回の規約分類改訂にあたっては,従来の方針通りWHO分類に準拠することとし,定義は和訳し,解説は取捨選択しつつ,必要に応じて独自内容を加えた。WHO分類は疾患数,記載量において,膨大であるが,肺癌について,組織学的所見を中心に記載した。そのため,2021年11月26日発表したWHO第5版に基づく胸部腫瘍組織分類に記載されている「歴史的背景」,「コメント・本邦での状況」については重要な部分のみを抜粋した。合わせて参照いただきたい3)。中皮腫および胸腺腫においては,それぞれの取扱い規約において分かれて記載することにした。また,外科的切除検体の取り扱いは,縮小術の一般化に伴い,正確な病理病期の判定や分子診断を行ううえできわめて重要であることから,切除肺の固定や切り出しの方法に関するマニュアルをさらに充実させた。さらに,免疫チェックポイント阻害薬などによる新しい術前治療に対応し,病理学的効果判定基準についても国際的な基準を取り入れた内容と変更したが,これについてもすでに日本肺癌学会ホームページ上ですでに発表しており,2023年4月1日からの適応を依頼している。この効果判定基準については細部の修正も行っているので,詳細については第8章を参照されたい。改訂の要点#1~9は主にWHO分類改定について,#10~13は取扱い規約での改訂の要約である。
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