C 切除不能進行・再発例に対する化学療法ab 治療実施に関連した注意点 適応規準の目安 切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法の進歩により,高い腫瘍縮小効果(奏効率)が得られるようになり,高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI‒High)やHER2陽性の症例では,化学療法後のconversion手術が可能となり,長期生存が見込める場合もある。しかし,化学療法による完全治癒は現時点では困難である。国内外の臨床試験成績からは生存期間の中央値(median survival time:MST)はおおよそ17‒18カ月である47,48)。癌の進行に伴う臨床症状の改善や発現時期の遅延および生存期間の延長が当面の治療目標である。 化学療法の臨床的意義は,performance status(PS)0‒2の症例を対象とした,抗癌剤を用いない対症療法(best supportive care:BSC)群と化学療法群とのランダム化比較試験において,化学療法群における生存期間の延長が検証されたことからその意義が認められている49‒51)。また少数例ではあるが5年以上の長期生存も得られている。したがって,切除不能進行・再発症例あるいは非治癒切除(R2)症例に対して化学療法は第一に考慮されるべき治療法である。 切除不能進行・再発症例,あるいは非治癒切除(R2)症例で,全身状態が比較的良好,主要臓器機能が保たれている場合は化学療法の適応となる。具体的な条件としては,PS 0‒2で,局所進行,遠隔リンパ節,他臓器への遠隔転移を有するなどが挙げられる。 化学療法実施の際には,以下の条件を参考に適応を判断する。① 病理組織診断が確認されている。② PS 0‒2。PS 3以上の場合には化学療法は一般的に推奨されず,安全性と効果を考慮して慎重に適応を判断する(大量の腹水や高度の腹膜播種を伴う場合には,特に安全性に配慮する)。③ 主要臓器機能が保たれている。④ 重篤な併存疾患を有さない。⑤ 患者本人からのインフォームド・コンセントが得られている。① 治療前には,PS,身長,体重,自覚症状,他覚所見,血液検査結果(ウイルス肝32 Ⅱ章 治療法 1 切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法の適応の原則
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