家族歴を詳細に聞き取り,家系図を作成することは,遺伝医学的リスク評価と心理社会的支援の両面で有用である。1. 遺伝カウンセリングにおける意義 クライエントの臨床情報と家族歴に基づいた遺伝学的な評価について,遺伝カウンセリングの早い段階で情報を整理する。遺伝カウンセリングの場では当該家系において考慮される遺伝性腫瘍症候群や,遺伝学的検査の選択肢,リスク評価の観点から最初に遺伝学的検査を受けることが推奨される対象者などを検討する。最近では腫瘍組織のみを解析するCGPにおいて,がん易罹患性遺伝子に病的バリアントが検出されPGPVが想起された場合に,生殖細胞系列由来の可能性を検討するうえで家族歴や家系図が参考にされることもある。 さらに遺伝カウンセリングでは家族の構成や病歴を確認する家族歴聴取のプロセスが,コミュニケーションを促進する一助となる。例えば家族歴聴取の中で知り得た家系内での人間関係や親密度,血縁者の居住地域,疾患に対する受け止め方や理解,死別体験やそのグリーフなどは,遺伝カウンセリング担当者がクライエントの背景を理解することに役立つことがある。このように丁寧な家族歴聴取は,ラポール *の形成や心理社会的な支援において有用な一面がある。2. 臨床的マネジメントにおける意義 クライエントが遺伝学的検査を受けた結果,GPVが判明した後に家族歴に基づいたサーベイランス計画を検討することがある。がん発症リスクが高く医学的な管理指針が確立しているがん易罹患性遺伝子であっても,家系内で発症したがんの特徴的なパターンを考慮して,医学的管理を個別に検討することがある 1)。そしてGPVを共有する可能性のある血縁者を同定し,その個人に対する情報共有を検討する際にも家系図が活用される。また遺伝学的検査の結果でGPVが報告されない場合であっても,遺伝学的検査の限界を踏まえ,家系図を参考に臨床背景を考慮し,個別のリスクに応じた医学的管理を計画することもある。 実際に家族歴に基づくリスク評価には限界もある。核家族化によって家系構成員が少ない場合や,家系内で疾患に関する情報共有がされていないなど,情報不足のためにリスク評価が困難なことがある。またクライエントの記憶が曖昧であることなども,正確なリスク評価を妨げる要因となる。詳細な家族歴聴取は遺伝学的なリスク評価を行う際の参考となる一方で,家族歴を認めないことが遺伝性腫瘍症候群を否定する根拠とはならないことに留意する。1. 家系図の対象となる範囲 家系図の作成では,通常,少なくとも3世代にわたって,父方,母方それぞれの第1度近親者(父母,きょうだい,子ども),第2度近親者(祖父母,おじ,おば,異父母のきょうだい,甥,姪,第5章 資 料212 1 1 家族歴聴取と家系図作成の意義 2 2 遺伝性腫瘍症候群における情報収集の留意点家族歴聴取と家系図記載法11
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