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があるとされた。しかし,“life‒threatening”の定義は明確ではなく,現在,NCCN のガイドラインでは symptomatic visceral disease,ABC5 のコンセンサスガイドラインでは visceral crisis という用語が用いられている1)2)。Visceral crisis の定義は内臓転移の有無のみならず,それに伴う臨床症状,血液生化学検査などに基づく評価により,急激な増悪がみられる場合とされており,臨床症状・検査値異常の評価が重視されている。さらに,診療にあたる必要がある。 進行・再発乳癌の治療法の選択には,これまでどのような治療を行ってきたか,現在どの部位に転移・再発があるのか,病変に伴う症状があるか,今後どのような症状の発現が危惧されるかなどに加え,サブタイプやコンパニオン診断となる因子の評価が欠かせない。画像診断で他臓器に転移や再発が疑われた場合に,転移ではない可能性,あるいは再発・転移であっても,治療によるバイオロジーの変化や腫瘍の不均質性などによりサブタイプが原発巣とは異なって評価される可能性もあるため,可能な限り生検を行い,病理学的評価およびサブタイプの再評価を行う。 ホルモン受容体陽性,HER2 陰性の場合には,内分泌療法を軸とした治療が第一選択となる(図1)。内分泌療法抵抗性,あるいは急速な病勢進行が予想されるか認められる場合(symptomatic vis-ceral disease/visceral crisis)は化学療法を検討する。HER2 陽性乳癌では抗 HER2 治療の実施は生存期間の延長が期待できる。トリプルネガティブ乳癌では近年,PD‒L1 発現陽性の場合に,化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の選択が可能となった。また,BRCA1/2 病的バリアントを有する症例においては PARP 阻害薬が適応となる。 2019 年からは,個々の患者のがん組織で多数の遺伝子変異を同時に調べ,その変異に合わせた治療法を選択するがんゲノム医療が行われるようになった。これは,がんや患者の個体差を集団で評価し,平均的な効果に基づいて治療法を選ぶ従来の枠組みとは異なり,がんや患者の特性を遺伝子解析結果によって個別に評価して治療に結び付けていく精密医療(precision medicine)の試みである。 また薬物療法のみならず,集学的治療として切除可能/出血や皮膚浸潤・神経浸潤を伴う局所領SDM:shared decision makingACP:advance care planning2.乳癌の治療体系/ B.進行・再発乳癌治療のプランニング 221ホルモン受容体陽性,HER2陰性急激な病勢進行なし 急激な病勢進行内分泌療法+/-分子標的治療(CDK4/6阻害薬,mTOR阻害薬)gBRCA1/2 病的バリアントを有する場合,PARP阻害薬SDMにより治療方針を検討する。ACP・緩和医療/ケアを適宜導入する局所領域再発転移巣切除,放射線治療等サブタイプに応じて全身治療遠隔転移ホルモン受容体陰性,HER2陰性PD-L1陽性免疫チェックポイント阻害薬+化学療法化学療法HER2陽性抗HER2治療が主軸b.癌の状態の評価図 1.転移・再発乳癌治療の進め方進 行 し た 症 例 で は, 緊 急 の 対 応 を 要 す る 病 態“Oncologic Emergency”の可能性を念頭に置いて

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