日本乳癌学会 専門医制度委員会委員長 髙 橋 將 人 日本乳癌学会が実践する専門医制度の目的は,乳腺疾患の診療および研究に携わる医師の専門的な知識と技能を高めることで,医療の質の向上に貢献し,乳癌による死亡率の減少を目指すことにあります。日本乳癌学会には,国民から評価される専門医を育成するための適切な教育体制を構築する責務があり,1997 年に専門医制度を発足させました。他学会の専門医制度を参考にし,専門医資格取得に必要な学術的業績や研修実績を規定し,筆記試験および面接試験による合否判定制度を確立しました。また,専門医試験の受験資格を明確にするために乳腺認定医の制度を設け,認定医資格の取得には日本乳癌学会の会員歴や,認定または関連施設での研修実績が必要であると規定しました。このように,日本乳癌学会は患者に信頼される診療を実現するため,堅実な乳腺専門医制度を構築してきました。 一方で,日本乳癌学会のようにしっかりとした専門医制度を構築している学会と,そうではない学会の専門医が混在する状況が生じ,国民の間で専門医の質に対する疑問が呈されるようになりました。こうした背景のもと,学会主導で認定されていた多様な専門医の質を担保する目的で,2014年に日本専門医機構(以下,機構)が発足しました。しかし,多くの学会の事情を考慮しながら,国民にわかりやすく信頼される制度の標準化・統一化を進めるには多くの困難があり,制度設計には時間を要しました。その結果,2018 年には外科,内科,放射線科,産婦人科など 19 の基本領域の専門医制度が整備されました。ただし,機構はサブスペシャルティが複数の基本領域にまたがることを許容しなかったため,日本乳癌学会では,学会員の多くが日本外科学会に属していることを踏まえ,外科専門医のサブスペシャルティ領域として機構が認定する「乳腺外科専門医」の整備を進めることにしました。一方で,外科系以外の分野については,引き続き日本乳癌学会が「乳腺専門医」として認定を継続する方針を採用しました。 現在,機構が認定する「乳腺外科専門医」と日本乳癌学会が認定する「乳腺専門医」は,同じ筆記試験および面接試験を実施しています。機構は日本乳癌学会による試験結果を承認し,「乳腺外科専門医」として認定しています。一方,現行の「乳腺専門医」については,外科系分野は将来的に「乳腺外科専門医」に移行する予定ですが,外科系以外の分野については引き続き日本乳癌学会が「乳腺専門医」として認定を継続可能であることが,機構より示されています。 また,機構が認定する「乳腺外科専門医」の誕生により,専門医資格取得のために乳腺認定医資格を取得する必要はなくなりました。しかし,専門医ではないものの地域で活躍する日本乳癌学会会員のために,乳腺認定医および認定施設は機構の専門医制度とは切り離し,学会独自で診療の質を担保する形で認定を継続することとなりました。 『乳腺腫瘍学』は,専門医を目指す医師にとって必須の教科書として利用されているだけでなく,乳腺疾患に関する基礎から臨床に至る知識の整理にも役立つ書籍です。学会員全員の「座右の書」として,ご活用いただければ幸いです。xix専門医制度と教育システム
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