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 第2版が出版されてから後,COVID‒19(新型コロナウイルス)によるパンデミック,ロシアによるウクライナへの軍事侵攻と目まぐるしく世界情勢が悪化した。特に,COVID‒19では改めて医師として医療を考えさせられることとなった。継続的にこの改訂版で追加や変更すべき内容を意識しながら,学会での発表を傾聴し論文を拝読してきた。第2版では骨粗鬆症性椎体骨折と成人脊柱変形の項目を追加した。さらに,この数年でlateral interbody fusion(LIF),頚椎人工椎間板置換術やコンドリアーゼを用いた椎間板内酵素注入療法などの新技術が広がってきた。また頚椎後弯症や腰椎変性側弯症も頚椎や腰椎の変形がある局所の評価をするだけでは不十分で,これら脊柱変形は脊柱全体の矢状面アライメント(global sagittal alignment)や冠状面や回旋変形を考慮して病態評価や治療方針を立てる必要がある。今回の第3版ではこれらの内容も新たに追加した。 加えてその上で重視したことは,「不易流行」なる医療であり,新技術というよりも普遍的な診断と治療選択の考え方である。「不易流行」とは松尾芭蕉が奥の細道を旅する中で見出した俳諧理念である。いつまでも変わらないもの,変えてはならない本質的なもの(不易)と目まぐるしく変わる新しい時流の両方が欠かせないもので,両者をバランスよく両立させることが重要である。新しい技術(特に,術式)は外科医にとって興味深く機会があれば試してみたくなるものである。そこで常に外科医が自問自答すべきは,この新技術が従来の治療法よりも短期的にも長期的にも優れているか,安全に施行できるか(自分の技量や施設を考慮して),ということである。 学問の面白さは創造であるが,それは梅原猛先生が述べられているように今まで誰も明らかにしていない「真理」を発見することである(梅原猛著作集14『思うままに』小学館,2001年)。そして,また今まで通説とされてきたものに懐疑心を持ち,覆す新事実を発見することで通説を旧説に変えてしまう醍醐味がある。 本書では初版から一貫して自論に言及することはできるだけ避け,診断・治療選択における多様性を重要視してきた。 さらに,最も重きを置いている総論でも図・本文の変更や追加を行った。どんな情勢の時代となろうとも医療は変わらず患者のために決断して挑み続けることが必要で,本書が脊椎脊髄病に興味がある学生や研修医,脊椎脊髄外科医にとって自ら診断と治療を検討する上で手助けになることを心より願っている。令和4年3月吉日岩 﨑 幹 季第3版の序

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