919-2.脊椎前方アプローチ9-1.脊椎手術の基本 1)左右どちらでも到達できるが,C6以下の場合,反回神経の走行から左側アプローチが有利である。頚椎は過度の後屈位ではなく,気管挿管時のsniffing positionを意識して気管の緊張がないことを触診で確認する。頚椎の対側への回旋も従来行っていたが,気管の緊張を強めることになり展開の際に気管や食道への牽引による負担が増大するため,最近は行っていない49)。 2)C7⊘T1椎間は通常の頚椎前方アプローチで到達可能だが,T1椎体の処理やT1⊘2椎間の処理が難しい症例もある。MRI矢状断像やCT矢状断像で椎間に平行な線と胸骨上縁との位置関係や上位胸椎の深さなどを術前に確認しておく必要がある。 3)C6横突起前結節(p486「Surgical Anatomy」脊椎外科手術で最も重要かつ難しいことは,手術適応(患者選択)と術式選択である!!! 再手術などでアプローチに困難が予想される場合は,頚椎前方であれば耳鼻咽喉科(頭頚部外科),胸椎前方であれば呼吸器外科(肺との癒着が危惧される場合)あるいは心臓血管外科(大血管との癒着が危惧される場合),腰椎前方であれば泌尿器科(後腹膜の癒着が危惧される場合)あるいは心臓血管外科(大血管との癒着が危惧される場合)による専門的アドバイスや実際の手助けがアプローチを容易にしてくれるだけでなく,さまざまな合併症の回避にもつながる。 脊柱・脊椎の機能は,◎支持性◎可動性◎神経(脊髄)の保護である。したがって,脊椎手術はそれらの機能をなるべく保つように考慮する。 脊椎手術は基本的に,① 除圧(decompression):脊髄,神経根② 固定(stabilization or fusion):骨移植,インストゥルメンテーション③ 矯正(correction or realignment)または整復(reduction)の組み合わせなので,術前に予定した手術は,なぜそれを選択したか,他の選択肢はなかったのかを術者は患者の症状と所見(特に神経学的所見)をもとに考える必要がある。特に,可動性を有する脊椎を固定する場合は,固定すべき正当な理由と固定椎間,固定アライメント(特に矢状面アライメント)などを術前にじっくり検討しておく必要がある。また,手術は緊急で行う必要があるのか,待機手術でよい場合でもいつ,どのような術式選択で行うのが最善かも考慮する。 手術記録には,上記のどの術式をどのレベルで行ったのかをまとめて記載する。また,術前に予定した通りの手順であったのか,術前に予定した術式と違ったのなら,術中のどのような判断でそれをせず他の術式にしたのかを記載する。頚椎前方脊椎手術の基本と実際
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