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章Ⅱ近年の橈骨遠位端骨折に55診療ガイドラインはevidence-based medicine(EBM)の最たるものであり,治療法の選択に際して大きな指針となる。ただし,診療ガイドラインはあくまでも最大多数の最大幸福を得る立場の医療であり,もれなく全ての人を守ろうとする規範主義に立脚しているわけでないことを忘れてはならない。規範主義にも則ろうとするならばガイドラインを押さえつつ,経験より導き出されるeminence-based medicine(EBM)も必要になる1)。本項ではこの2つのEBMをもとに骨折形態と患者背景から治療法の選択方針について述べる。2)転 位 度アメリカ整形外科学会とアメリカ手外科学会による最新の橈骨遠位端骨折の診療ガイドライン3)において非高齢者では橈骨短縮>3mm,背屈転位>10°,関節内骨片の転位や段差>2mmの背側転位型骨折に対する手術療法が中等度の推奨を受けている。また,本邦の新しい診療ガイドラインも青壮年者に対しては徒手整復・ギプス固定後の掌側傾斜(PT)が−10°未満かつ尺骨変異は健側と比較し2mm以下の差異であれば,その遺残転位はほぼ許容され,それを逸脱するような不安定型関節外骨折には手術療法が弱い推奨ながら有用とされている4)。さらに,関節内骨折の転位も青壮年者ではX線評価で2mm未満の間隙,段差の残存は許容され,弱い推奨ながらそれ以上の転位のある関節内骨折に対する手術療法は保存療法より有用とされる4)。一方,高齢者ではX線評価と機能成績には関係性がなく,手術療法も保存療法と比べて長期的な患者立脚型評価の改善につながらないという強いエビデンスがある2, 3)。そのため手術適応の指標1 骨折形態1)骨折状況掌側や背側の関節縁骨折を伴う脱臼骨折,掌側転位型骨折(Smith骨折など),開放骨折,関節内粉砕骨折,月状骨窩骨片が陥没した骨折は年齢を問わず手術適応となる。一方,背側転位型骨折(Colles骨折)は患者背景や転位度を考慮して治療法を選択する2)。1治療法の選択対する治療法

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