Ⅱ1治療法の選択近年の橈骨遠位端骨折に対する治療法59区別し,治療法を一概に決定することは難しい。治療法選択には個別化が必要となり,患者個人個人の全身状態や就労状況に加えて,スポーツや楽器演奏などの趣味に関しても考慮すべきである。1)小 児骨端線が開存して自家矯正能が旺盛な症例を小児とすれば,選択すべき基本治療は保存療法となる13)。しかし,骨端線にかかる外傷,つまり成長軟骨板骨折でも骨折線が関節面に及ぶSalter-Harris分類Ⅲ型や骨端線を斜めに通過するⅣ型は手術療法の適応となる。2)成 人高齢者と非高齢者で治療法の選択が大きく変わる可能性がある。アメリカ整形外科学会とアメリカ手外科学会による最新の橈骨遠位端骨折の診療ガイドラインでは高齢者と非高齢者の境界を以前までの55歳から65歳に変更した3)のに対して,本邦の新しい診療ガイドラインにおける高齢者はあくまでも取り扱った文献に則ったものと取り決められていること4)には留意すべきである。a 65歳未満前述した転位度の遺残を認める65歳未満の背側転位型骨折は手術療法が薦められる。それは手術療法が保存療法と比較して,X線評価のみならず,患者立脚型評価の長期的な改善につながる中等度のエビデンスが認められているためである3)。治療法の選択にあたっては生活環境への配慮を忘れてはならない13)。労働災害によらない受傷,職業としてスポーツや音楽活動に従事している症例においてはPLPを用いた手術療法で早期の機能回復を目指すことになる。労働災害による骨折は休業加療についての制約があまりないので,骨折型に適した治療法を選んで適切な治療ができる。b 65歳以上高齢者ではX線評価と患者立脚型評価が関係せず,加えて手術療法が保存療法と比べても長期的な患者立脚型評価の向上に結びつくわけではないという強いエビデンスが存在する2, 3)。近年,PLP固定を施行した高齢者においても術後6ヵ月の短期ではなく,12〜24ヵ月時点で保存療法より患者立脚型評価が有意に優れるとの報告もある14)。しかし,ここで有意と認められた患者立脚型評価上の差は臨床的に有益とはいえず,必ずしも高齢者に対して手術療法を推奨するものではない。本書前版で斎藤英彦先生が述べているように高齢者では治療法の選択に個別化が必要となり13),患者個人個人の全身状態や就労状況に加えて,スポーツ(ゴルフ・テニス・ヨガなど)および楽器演奏といった趣味,生活環境,置かれている社会経済的状況や文化,美容面の要求などを踏まえて治療法を選択する。活動性が低く機能的な要求も少ない老人ホーム入所中の患者,周術期や麻酔の危険性を高める併存症ならびに認知症を有する症例,フレイルに該当する患者は保存療法が選択される2)。独居などで家事や身の回りのことを全て一人で行っている人,趣味としてスポーツや楽器演奏を生き甲斐に行っている人,上肢を下肢機能の補助として使用している人に対しては年齢だけで消極的な治療法を選択してはならず,
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