25167T
3/10

A総論腫瘍には臨床的な特徴(好発年齢,部位,症状,放射線画像所見など)と病理形態学的な特徴(肉眼像,病理組織像)が存在する。診断にあたっては個々の症例に認められるそれらの特徴を丹念に調べ,所見の最も合致する腫瘍型を診断名として採用する。なかでも,光学顕微鏡下での病理組織学的検索により得られる所見が診断上とりわけ重要である。ただし,症例によっては非定型的な臨床病理像を示すことや,異なる腫瘍であっても類似した特徴を示す場合があり,さらには同じ腫瘍でありながら形態学的な多様性がみられることも稀でなく,そのような例では診断に難渋することがある。B組織形態学的評価通常病理診断に用いられる検体には,腫瘍の針生検または開放生検組織,そして摘出腫瘍組織がある。いずれも10%中性緩衝ホルマリンにより固定され,型通りに作製されたパラフィンブロックから組織切片を薄切し,H-E染色を施して光学顕微鏡下で観察する。必要に応じてPAS(periodic acid Schiff)染色やAlcian青染色,マッソン3重染色,鍍銀染色などの各種特殊染色も用いられる。後腹膜発生例等で生検が困難な場合には,穿刺吸引細胞診が施行されることもある。なお,電子顕微鏡的検索が診断に必要となる状況は,今日では例外的である。腫瘍の組織型は主として,腫瘍細胞に認められる特定の分化(differentiation)方向に基づいて決定されている。したがって,まずヘマトキシン・エオジン(H-E)染色で腫瘍細胞の分化方向を確認あるいは推定することが必要であり,H-E染色でそれを認め難い場合には,種々のマーカー(抗体)を用いた免疫染色を実施して確認することが一般的である。さらに,腫瘍によってはその組織型に特徴的な遺伝子・染色体異常が存在することがあり,遺伝子解析によって特定の遺伝子・染色体異常を検出することも診断上有用である。すなわち,通常の臨床病理学的特徴の検討のみでは診断に難渋する場合,免疫染色や遺伝子解析などの補助的診断法を積極的に用いることで診断を確定できる場合がある。軟部腫瘍の領域で今日認識されている腫瘍の組織型や亜型は非常に多いうえに,それらの発生頻度は概して低いことから,あらゆる腫瘍の臨床病理学的特徴に精通することは容易でない。したがって診断にあたっては,World Health Organization (WHO)腫瘍組織分類のテキスト2)をはじめとする成書を適宜参照しながら,腫瘍の特徴を確認することが推奨される。また診断困難症例においては,専門家へのコンサルテーションを行うとよい。腫瘍の組織型を決定したうえで,その組織学的悪性度(FNCLCCグレード)や切除断端の評価などを必要に応じて行う。具体的な病理診断の様式・記載例は別項(Ⅱ-8.病理診断報告書の記載例)で取り上げる。2.診断の流れ 252.診断の流れ

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る