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1. はじめに3 検査結果をいかに伝えるか出生前検査・診断の場においては,悪い知らせを伝える場面は多々ある。何を悪いとするのか,どこまでのことを悪いと受け取るのかは人によって異なるし,染色体の問題の確定診断結果を伝えるのと,まだ確定ではないスクリーニング検査結果を伝えるのとでも状況は異なるであろう。そうした様々な状況を想定しつつ,良い知らせではないと思われる結果を伝える際のコツを挙げてみたい。2633 検査結果をいかに伝えるか3)悪い知らせをいかに伝えるか例えばがん領域では,「がん告知」が一般的ではなかった1980年代から,様々な理由により患者本人にがんの診断を伝えることが当たり前になってきた現代に至るまでの歴史的変遷の中で,医師ががんの診断をいかに伝えるかについて学ぶ研修セミナーが全国各地で開かれたり,大学医学部にてコミュニケーションを学ぶ授業の中でもしばしば「がん告知」が取り上げられたりして,「がん告知」について医師が学ぶ機会がそれなりに設けられてきた。一方,産科領域においては,一般的な妊婦健診で予期せぬ流産,死産を発見して妊婦に「悪い知らせ」を伝えなければならないといった場面は昔から存在していたと思われ,多くの産科医は先輩医師の振る舞いから学んだり,経験的に自分のやり方を構築したりしてきたことと思われる。本項では,そうした産科医が培ってきたノウハウも考慮しつつ,米国の遺伝カウンセリング理論の中で教授されている知識を加えて整理してみたい。まず,前提として理解しておきたいことは,すべての人が満足するような唯一無二の素晴らしい告知の仕方は存在しないということである。したがって,告知の方法はこうあるべき,と考えていつも同じ方法をとっているのでは,告知スキルとしては不十分である。実際,1人で受診しているときに悪い知らせを告げられてショックだったという人もいれば,家族がいない1人の ときに話をしてもらったことをありがたく思う人もいる。感情に寄り添って話してもらったことを感謝する人もいれば,淡々と話してもらったことで冷静になることができたと思う人もいる であろう。告知後に,他の医療者から声をかけてもらってうれしかったと感じている人もいる2. 悪い知らせの伝え方に唯一無二の優れた方法は存在しない第3章  出生前検査・診断に関する話し合い ─明日から使える対話のヒント 3)悪い知らせをいかに伝えるか

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