1. 中絶について口にしづらい妊婦・家族と 4 人工妊娠中絶をめぐる支援出生前の検査・診断を扱う診療において,医療者が最も難易度が高いと感じる場面の1つが人工妊娠中絶の前後の支援であろう。しかし,中絶を考える場面でのサポートの充実は,出生前検査・診断をめぐる診療の柱ともいえる。本項では,中絶をめぐる支援の充実につながるヒントをまとめてみたい。280どといって面談を終了したり,中絶あるいは妊娠継続と考えていると発言する人々に対しても,深く突っ込んで話すことなく「そうですか,わかりました」といって終わりにしたりしがちである。自分で話す代わりに,染色体異常を有する児の親の会など当事者団体と話してみては? と伝えたり,障害のある児を診ている小児科医や,遺伝カウンセリングの外来に紹介したり,「心理カウンセリングを受けて」ということもあるかもしれない。しかしこれらはすべて,胎児診断の結果を伝えている医療者が,中絶の話し合いから逃げようとしている姿勢のあらわれである(当事者団体や他の専門家を紹介することは有用であるとしても,そうした情報提供は話の最後にとっておきたい)。中絶は,それを選ぶにしても選ばないにしても,妊婦や夫婦・カップルにおいて,非常に大きな決断であることは間違いない。しかし日本では一般的に,中絶はこそこそ隠れてするものと捉えられがちで,胸を張って堂々と選ぶこともはばかられる。一方で,妊婦や夫婦・カップルは過去に経験したことがない状況で,誰かに相談したくても誰に相談してよいかもわからず,医療者に対して「中絶」という語を口にすることすら躊躇するような状況があり,人々は往々にして孤立し,支援がないと感じている。したがって,まずは,胎児の診断について説明している医療者チームが「あなたが中絶するにしてもしないにしても,最後までともにいますよ,逃げずにサポートしますよ」「一緒に頑張ってこの状況を乗り切りましょう」という姿勢を示し,相手が何をどのように決めるとしても,決められずにひたすら泣いているとしても,時間をともにし,じっくりと話を聞き,相手の思いや考えを尊重していくことが重要である。忙しい日常診療において,そうした時間をとることは必ず第3章 出生前検査・診断に関する話し合い ─明日から使える対話のヒント第3章 出生前検査・診断に関する話し合い ─明日から使える対話のヒント しっかり「ともにいる」姿勢を臨床の現場では,中絶の話になると医療者も口ごもり,「ご家族でよく話し合ってください」な1) 胎児の疾患がみつかったら? 中絶するかどうかの話し合い
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