128とLHを比較検討した複数のメタ解析,RCT,コホート研究において,術中および術後合併症の発生率に差はないという一定の見解が得られている 2,5-8,12,14-16)。一方で,RAHがLHに比して周術期合併症が少ないとの報告もある4)。良性疾患に対する子宮全摘出術における膀胱鏡検査の有用性を検討したメタ解析では,RAHにおける尿管損傷の発生率は0.41%(95%CI: 0.2-79.4)であるが,LHとの比較はなされていない17)。LHでは尿路系損傷のリスクがAHの2.44倍高いとの報告もあり14),RAHにおいても同様に尿路系臓器の損傷のリスクに配慮した施術が望まれる。術後排尿障害に関するコホート研究では,RAHあるいはLH後に排尿障害が7.3%に認められ,RAHにおける発生頻度はLHの2.6倍であり,ロボット鉗子操作による過度の膀胱の剝離操作が要因であると考えられている18)。術中腸管損傷の頻度はシステマティックレビューによると,RAHを施行した2,361例においてその発生率は0.38%(95%CI: 0.20-0.72)であり,その66.7%はトロッカー穿刺によるもので,LHにおける発生率と差はないものと考えられる19)。RAH後の腟断端離開は0.3~3%に認められ5,9,10,20),LHと比べて発生率に有意差はなかった(RR: 2.00, 95%CI: 0.19-21.57)5)。また,2019年に報告されたシステマティックレビューによると,RAH術後の感染症発症率はLHに比して有意差は認められなかった21)。解 説●ロボット支援下単純子宮全摘出術の適応は?»» 腹腔鏡下単純子宮全摘出術と同様であるが,術者の技量や施設の裁量に委ねられる。 良性疾患を適応とするRAHは,2018年4月に腹腔鏡下腟式子宮全摘出術(内視鏡手術用支援機器を用いる場合)として保険収載された。RAHの保険診療報酬を算定するためには,厚生労働省が定める施設基準を満たして届出を行う必要がある。 RAHあるいはLHが施行された7,630例を対象としたコホート研究によると,手術時間が240分以上になると術後合併症の発生率は有意に高まり,1時間延長すると合併症発生率が1.4倍になった22)。LHと比べてRAHでは手術時間が延長することに留意し,子宮の大きさ,癒着の有無などの手術時間の延長に寄与する要因を考慮して症例を選択する必要がある。 また,腹腔鏡手術と同様に子宮重量はRAHの手術時間と術中出血量に相関することが報告されている23)。大きな子宮に対するRAHは手術時間が延長するため合併症に留意する必要があるが,手術手技の向上や将来的な新規ロボット支援機器の登場により,その適応が拡大することが予測される。 75歳以上の高齢者では,RAHを含むロボット支援手術における周術期合併症の発生率は,75歳未満の患者と比べて差はなかった20)。高齢者では心疾患の合併が多いため,術後不整脈の頻度が高まることに留意する必要がある。 RAHの適応について,明確な基準を設定することは難しいが,手術時間の延長によって合併症が増えることがないよう適応症例を選択する必要がある。RAHを行う際は,AHやLHなど他の選択肢についても患者に提示し,インフォームド・コンセントを得ることが肝要である。
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