1−5 変異は誰でも持っている
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遺伝子とは
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変異は誰でも持っている
遺伝病は遺伝する病気であり,家族・親戚にそのような人がいなければ自分は関係ない
と思っている人が多い。しかし,これは大きな誤りである。「遺伝」は親の形質が子に伝わ
る現象をいうが,「遺伝病」とは決して遺伝する病気のことだけをいうのではなく「遺伝」と
いう現象を担っているもの,すなわち遺伝子や染色体がその発症に関係している病気のこ
とをいうのである。両親に変異がない場合にも,精子や卵子が形成される時に突然変異に
より遺伝子変異が起き,その精子・卵子が受精し成長すると変異が起こった遺伝子を持っ
た赤ちゃんが生まれることになる。このような突然変異は誰にでも,ある一定の頻度で起
きているのであり,すべての遺伝子が正常な人などいない。すなわち「人類皆遺伝病の保
因者」といえるのである(図5)。
最近の遺伝子解析技術の進歩により,どんな人でも数個から数十個の病的変異を持つこ
とが明らかとなっており,どんな人でも必ず何らかの病気の保因者であると言える。数万
人に1人の病気であっても保因者頻度は数十人に1人と決して稀ではないし,ほとんど全
ての病気に遺伝子が関与することを考えれば,どんな人でも数個から数十個の病気の原因
となる遺伝子を持って生まれてきていると考えるのが正しいと言える。したがって,常染
色体劣性遺伝病の赤ちゃんは,ある一定の確率で偶然生まれてくるものであることを理解
することが重要である。
特にわが国では一般的に遺伝学教育が不足しており,遺伝の問題に関し多くの誤解と偏
見が存在する。難聴に限らず遺伝学的検査(遺伝子診断)を実施する際には遺伝カウンセリ
ングが必要不可欠だが,中でも「遺伝形式」
「保因者頻度」および「遺伝学的検査の意義」につ
いての十分な説明を行うことが重要である。正確な遺伝医学の知識(例えば,どんな人で
図5 人類は皆保因者