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5章 耳 科
5 章 耳 科
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真 珠 腫
A
疾患概念
真珠腫は大きく先天性と後天性に分類され,
後天性はさらに弛緩部型真珠腫と緊張部型真珠
腫に細分類される。後天性真珠腫のなかには鼓
膜穿孔縁から上皮が侵入する二次性真珠腫や医
原性真珠腫などもまれではあるが存在する。病
態分類と進展度については日本耳科学会から中
耳真珠腫進展度分類が提唱され整理されてい
る。初期には無症状であるが,徐々に伝音難
聴,耳漏などが生じる。進行すると前庭症状,
感音難聴,顔面神経麻痺,髄膜炎や脳膿瘍など
を生じる。
小児では先天性真珠腫が後天性真珠腫よりも
頻度が高い。また,先天性真珠腫は内視鏡など
の医療光学機器の進歩と小児科医への認知が進
んだことにより,低年齢での発見例が増加して
いる。以下,先天性真珠腫を主に述べていく。
B
原因・病態
1
.
先天性真珠腫
先天性に上皮が中耳腔に迷入して発生したも
のを先天性真珠腫とするが,その病態や病因に
ついては現在まで統一した見解はない。従来は
Derlackiの診断基準が広く使用され,①正常鼓
膜,②中耳感染の既往がない,③胎生期の表皮
芽の迷入または未分化組織の扁平上皮化生を証
明する,と定義されていた。しかしながら中耳
感染の既往がないことはまれであることから,
この診断基準に異論を唱える報告も多かった。
日本耳科学会では2015年改訂の「中耳真珠腫進
展度分類」において,「中耳腔内に先天的に発
生する鼓膜・外耳道と連続性のない真珠腫」
「鼓
膜の穿孔や陥凹を伴う例は原則として含めな
い」と定義している
1)
。
先天性真珠腫は後天性真珠腫とは異なり耳管
機能や中耳粘膜の障害もなく,乳突腔の発育も
良好であるとされている。初期にはほぼ無症状
であるため偶然発見される場合が多いが,進行
例では難聴・耳漏などが契機となり発見され
る。臨床的に真珠腫の発生部位から,鼓室型,
錐体部型,乳突腔型に分類されるが,そのほと
んどは鼓室型である。鼓室型は欧米では鼓室前
上部に位置するもの(StageⅠa:図1-a)が多い
とされる。しかしわが国では鼓室後上部に位置
するもの(StageⅠb:図1-b)が多いとされて
おり,この差異について詳細は明らかになって
いない。いずれも進行すると両部位にまたがっ
てくる(StageⅠc:図1-c)。また,上鼓室や錐
体部,乳突腔に生じる例では成人になるまで症
状が出現しないこともある。真珠腫の形態的に
は嚢胞状の形態を示すclose型(図2)と膜状・
島状の形態を示すopen型(図3)とに分類され
る。close型の典型例では鼓室内に透見される
白色塊を認める。一方でopen型は伝音難聴を
主訴とすることがほとんどであるため試験的鼓
室開放術や耳小骨奇形の手術時に発見されるこ
とがある。その他,自然消失する先天性真珠腫
の存在も一部明らかになっているが,詳細につ
いては明らかになっていない。
2
.
後天性真珠腫
後天性真珠腫は鼓膜の一部が鼓室内,特に上
鼓室に陥凹進入し,その内陥上皮の袋状の部位
に皮膚の剝脱物(デブリdebris)が蓄積し,さ
らに周囲の骨を破壊しながら乳突腔へ広がる疾
患である。初期には症状が少なく,多くが幼小
児期に反復する急性中耳炎や滲出性中耳炎の既
往をもち,乳突腔の発育は一般的に抑制されて
いる。鼓膜の表皮進入部位により,鼓膜弛緩部