メニエール病は,難聴,耳鳴,耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する典型的な内耳性めまい疾患であり,その病態は内リンパ水腫である。長期にわたりめまい発作が反復し,経過とともに難聴が進行することから,患者の社会生活上の影響がきわめて大きく,1974年に厚生省により特定疾患(難病)に指定された。その後,厚生労働省の「前庭機能異常に関する調査研究班」,「難治性めまい疾患に関する調査研究班」,AMED研究班により研究が行われてきた。「2008年度〜2011年度厚生労働省前庭機能異常に関する調査研究班」により,メニエール病診療の標準化と普遍化および診療水準の向上を目標に,『メニエール病診療ガイドライン2011年版』が発刊され,広くメニエール病の診療に用いられてきた。遅発性内リンパ水腫は,陳旧性高度感音難聴の遅発性続発症として内耳に内リンパ水腫が生じ,めまい発作を反復する内耳性めまい疾患である。片耳または両耳の高度感音難聴が先行し,数年から数十年の後にめまい発作を反復するが,難聴は変動しない。先行した高度感音難聴の病変のため,長い年月を経て高度感音難聴耳の内耳に続発性内リンパ水腫が生じ,内リンパ水腫によりめまい発作が発症すると推定されているメニエール病類縁疾患である。2015年に遅発性内リンパ水腫が指定難病に指定されたことから,遅発性内リンパ水腫診療ガイドラインが求められるようになった。2015〜2017年度AMED研究の研究費と2016〜2017年度厚労科研の研究費により作成された,「メニエール病診療ガイドライン2018年版」(案)と「遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2018年版」(案)が作成された。これに基づいて一般社団法人日本めまい平衡医学会が『メニエール病診療ガイドライン2011年版』を改訂して作成したのが,『メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版』である。本診療ガイドラインは,あくまでメニエール病と遅発性内リンパ水腫の診療を支援するためのものであり,診療を拘束するものではない。本診療ガイドラインの内容を,臨床の現場でどのように用いるかは,医師の専門的知識と経験をもとに,患者の希望や価値観を考慮して判断されるものである。有効性を示す高いエビデンスがないことは,その治療が無効であることを意味しているわけではなく,また行ってはならないことを意味しているわけではない。しかし,エビデンスのない治療を行う場合には,エビデンスのある推奨される治療を行わなかった合理的な配慮が必要である。なお,本診療ガイドラインの推奨事項は,法的根拠になるものではない。84.作成の背景と沿革
元のページ ../index.html#2