42 前庭リハビリテーションは,両側末梢前庭障害による慢性期のめまい症状の改善や視線の安定化,バランスや歩行障害の改善に効果が得られる根拠のレベルが十分ではないことを理解したうえで,行うことを強く推奨する。【推奨の強さ:1,合意率:100%,エビデンスレベル:B】推奨背景・目的 両側末梢前庭障害はまれな疾患であり,米国での疫学調査において,その有病率は10万人あたり28人と推計されている1)。両側末梢前庭障害は,いったん発症すると一側末梢前庭障害とは異なって前庭代償が進行しにくいため,体動時のふらつきや動揺視が長く持続し,患者のQOLを著しく低下させる。さらに,本疾患を有する患者の転倒リスクは健常人の31倍とされる1)。両側末梢前庭障害に対しては,有効な薬物治療はないのが現状である。両側末梢前庭障害に対する前庭リハビリテーションは,自覚症状の改善,視線の安定化および歩行機能の向上などを目的に行われる。 本CQでは,慢性期の両側末梢前庭障害に対する前庭リハビリテーションの有用性を検討する。解説・エビデンス 両側末梢前庭障害に対する前庭リハビリテーションの有効性について,1編のシステマティックレビューが行われている。Porciuncula, et al., 2012は,4編のRCTと1編のコホート研究および9編のケースコントロールトライアルの計14編の研究(合計327人,うち両側前庭障害患者164人)について,システマティックレビューを行っている。7編はエクササイズをベースとし,他の7編は感覚代行装置を用いた前庭リハビリテーションを施行していた。視線および姿勢の安定化をアウトカムとした全ての研究で,前庭リハビリテーションの有効性が示され,さらに歩行速度と動揺視や平衡異常に関する自覚症状をアウトカムとした5編の研究で,前庭リハビリテーションの有効性が示された2-7)。 両側前庭障害患者に対するエクササイズをベースとした前庭リハビリテーションの効果に関するRCTやコホート研究が,これまでいくつか報告されている。Herdman, et al., 2007は,両側前庭障害患者13例に対してRCTを行い,8例に視線を安定化させる頭部運動訓練を1日3〜5回,計20〜40分間とバランス・歩行訓練を行ったところ,頭部を固定したまま視線を動かすsaccade訓練とバランス・歩行訓練を行った対照群5例と比較してDynamic Visual Acuity (DVA)が有意に改善したと報告している3)。Krebs, et al., 1993は,両側前庭障害患者8例に対してRCTを行い,前庭リハビリテーション群4例と対照群4例に無作為にCQ2慢性期の両側末梢前庭障害に前庭リハビリテーションは有用か?
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