A1 基底回転から頂回転まで蝸牛軸の骨構造や,鼓室階,前庭階の隔壁が欠損している,incom-plete partition type 1(IP‒1)である。前庭の拡大やアブミ骨底板の欠損を伴うことがある。また,内耳道との隔壁を欠損することがあり,その場合蝸牛開窓時に脳脊髄液の噴出(CSF gusher)を伴う。IP‒1症例では,蝸牛軸の骨構造が欠損するため,らせん神経節細胞の分布は予想がつかず,人工内耳植込術をする際には蝸牛軸の骨構造が存在することが前提となる蝸牛軸近接型よりもストレート型の電極を用いることが多い。もう一つのincomplete partitionであるIP‒2(第2回転と頂回転で蝸牛軸の骨構造を欠損するが基底回転では骨構造はあり,鼓室階,前庭階は存在,前庭水管拡大を伴うことが多い)との違いや,他の内耳奇形であるcom-mon cavity deformity,IP‒3,蝸牛低形成などもその特徴,人工内耳手術の際に使用する電極をよく理解しておく必要がある。記述式 問題番号 31—1 解答と解説 人工内耳の適応となる先天性高度感音難聴の原因として内耳奇形があげられる。近年はSennarogluらによる分類が最もよく用いられる。奇形の種類によって,使用する電極の種類や人工内耳の術後成績が異なるため,各奇形の種類についての知識は重要である。また,アブミ骨底板の発生は内耳の発生と密接に関係しており,内耳奇形にアブミ骨底板の奇形が合併することはしばしば認められる。アブミ骨底板に瘻孔が存在する場合は,中耳炎から耳性髄膜炎を生じることがあり,耳性髄膜炎の原因として内耳奇形は重要である。A2 人工内耳植込術後の患者には,髄膜炎発症のリスク(頻度は0.1%以下)があるため,本症例でも左耳が髄膜炎の原因である可能性はある。しかし,右耳痛,右顔面神経麻痺を認めること,髄膜炎発症時のCTでは右耳鼓室内・乳突腔内に軟部組織陰影の充満が認められること,内耳奇形(IP‒1)は右にも認められアブミ骨底板の奇形の可能性があることから,右耳が原因で髄膜炎が発症したと考えられる。IP‒1では内耳と内耳道とが疎通していることが多く,アブミ骨底板の瘻孔の膜性構造物(内骨膜)が破綻すると脳脊髄液が鼓室・乳突腔に漏出して充満することもしばしば認められる。A3 右耳中耳内で中耳炎,乳突洞炎を発症した際にアブミ骨底板に存在した瘻孔の膜が破綻して,感染が内耳内に及び,通常認められる内耳と内耳道との間の隔壁も欠損していたため,次に内耳道経由で感染が拡大して髄膜炎を発症するに至ったと推測される。耳痛や顔面神経麻痺は中耳炎・乳突洞炎の症状と考えられる。内耳奇形,特にIP‒1ではアブミ骨底板の瘻孔が合併することが多く,瘻孔は膜性に閉鎖していることが多い。CTでアブミ骨底板から鼓室に突出する軟部組織陰影を認めることもある。治療方法としてはアブミ骨底板の瘻孔を筋膜や筋肉片などで閉鎖する内耳瘻孔閉鎖術が行われる。その際,脊髄ドレナージが併用される場合もある。2 記述式問題2019(第31回)
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