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第2章 褥瘡診療ガイドライン
・
体外から創内への液体,酸素,細菌の侵入を遮断し,かつ,創からの滲出液や蒸散を
体外に通過させない創の被覆法は,一種の閉塞性ドレッシング法ではあるがより厳密
に閉鎖性ドレッシング法あるいは密閉性ドレッシング法と呼ぶことがある。それに対
し,蒸散と酸素だけを通過させる被覆法は半閉鎖性あるいは半透過性ドレッシング法
となるが,両者の境界は不明瞭であるため慣例的にはあまり区別せず共に閉塞性ド
レッシング法として扱っている
378)
。
・
ラップ療法,すなわち,酸素透過性と水蒸気透過性が低いポリ塩化ビニリデンによる
食品用ラップを用いたドレッシング法は,ポリウレタンフィルムなどによる半閉鎖性
ドレッシングとは異なり,閉鎖性ドレッシングになりうる被覆材であるが,それ自体
に接着力がないので創部を密封することがない
375)376)378)
。なお,ラップ療法提唱者
は,創部を密封しないため過剰な滲出液が局所にとどまることなく流出することから
「開放性ウェットドレッシング」と呼称している
378)379)
。
・
ラップ療法,あるいは開放性ウェットドレッシングという用語で表現される被覆法に
はさまざまなものがあり,確定したプロトコールは存在しない。したがって,ラップ
療法全体に価値があるかを断定するのは難しい。しかし,ポリ塩化ビニリデンを用い
た創傷被覆法では,非ランダム化比較試験で従来療法群に比較して有意に褥瘡の改善
がみられ,感染の発生には差がなかった
375)
と報告されており,その方法に準ずる場
合には効果があるように思われる。
・
食品用ラップは医療材料として承認されていないため,健康被害を生じた場合には医
師の責任となる。患者および家族の同意を得て行う必要がある。
【文献】
374) Bito S, Mizuhara A, Oonishi S, et al: Randomised controlled trial evaluating the efficacy of wrap
therapy for wound healing acceleration in patients with NPUAP stage II and III pressure ulcer,
BMJ Open, 2012 ; 5 : 2.
(エビデンスレベル II)
375) Takahashi J, Yokota O, Fujisawa Y et al: An evaluation of polyvinylidene film dressing for
treatment of pressure ulcers in older people, J Wound Care, 2006 ; 15 : 452-454.
(エビデンスレベ
ル III)
376) 植田俊夫,下窪咲子,本田和代ほか:褥創に対するラップ療法の有用性の検証,褥瘡会誌,2006 ;
10 : 551-559.
(エビデンスレベル III)
377) 盛山吉弘:不適切な湿潤療法による被害いわゆる“ラップ療法”の功罪,日皮会誌,2010 ; 11 : 2187-
2194.
378) 立花隆夫:褥瘡の開放性ウェットドレッシング療法(open wet dressing)について教えて下さい,
渡辺晋一編:皮膚科診療こんなときどうするQ&A,東京,中外医学社: 2008, 213-215.
379) 鳥谷部俊一:褥創治療の常識非常識—ラップ療法から開放ウエットドレッシングまで,東京,三輪
書店:2005.