また,近年の免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の発展により,これら新規薬物療法を手術療法と組み合わせることにより,従来よりも予後改善が期待できる。手術のさらなる低侵襲化,ひいては省略をも行える時代も近いと考えられる。一方で,これら新規薬物療法による術後補助療法や進行期治療の日本人を対象としたデータは依然乏しく,実臨床においては,臨床試験で示されたほど効果は得られない可能性についても留意すべきである。SLNとは原発巣からのリンパ流が最初に到達するリンパ節である。SLNは複数個認められる場合もあるが,これらのリンパ節に転移を認めなければ,それより下流の領域リンパ節への転移はないものと判断でき,不必要な予防的リンパ節郭清術を回避して低侵襲な治療が可能となる。SLNBの概念は,1960年にGouldらが,耳下腺癌の手術で初めて提唱し102),特定のリンパ節の術中迅速病理診断によって頸部リンパ節郭清術の適応を用いて決定するというものであった。その後,1977年にCabanasは陰茎癌の治療に同様の概念を適応し103),1992年にはMortonらが,本手技のメラノーマへの応用を報告して皮膚悪性腫瘍にも用いられるようになった104)。(2)SLNBの適応・意義SLNBの有用性を検証するため,1994年から国際的な多施設共同の前向きRCT(Multicenter Selective Lymphadenectomy Trial-Ⅰ:MSLT-Ⅰ)が施行され,2014年に報告された105)。SLNBで潜在的な領域リンパ節転移を検出できるか,SLNに転移があった場合に直ちに根治的リンパ節郭清術を追加することが経過観察中に臨床的に転移が発見されてから郭清術を行う場合よりも予後が改善するか,について検証がなされた。その結果,SLNへの微小転移の有無は,再発や生存率に関連する強力な予後因子になることが確認され105),本邦における多施設共同後ろ向き研究においても,メラノーマの原発巣のTTとSLN転移率との間に正の相関を認めたことが報告されている(pTis:0%,TT:1 mm以下:11.3%,TT:1.01〜2 mm:21.0%,TT:2.01〜4.0 mm:34.0%,TT:4.01 mm以上:62.4%)106)。5.手術療法:センチネルリンパ節生検(SLNB)・リンパ節郭清術 374.5 おわりにメラノーマの手術療法はこれまで複数の臨床試験の結果より,縮小・低侵襲手術へと変遷して現在に至っている。一方で臨床試験の大半が白人を対象に行われたものである。特に原発巣の切除マージンに関しては, ALMが多い我々アジア人に適用しにくい症例も存在し,その真の効果,有用性も不明である。メラノーマ病型の割合が類似するアジア人を中心とした手術療法に関する前向き臨床試験を行い,その結果を発信し,本邦患者に即したガイドラインの策定が必要である。5.手術療法:センチネルリンパ節生検(SLNB)・リンパ節郭清術5.1 はじめにメラノーマにおける領域リンパ節に対する評価や治療が非常に重要であることは言うまでもないが,国際的な多施設共同研究の遂行や薬物療法の著しい進歩を受け,SLNBならびにリンパ節郭清術の意義や適応は,今後大きな変革の時を迎えるものと考えられる。5.2 センチネルリンパ節生検(SLNB)(1)センチネルリンパ節(SLN)とは
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