12 成人の精巣に発生する腫瘍の大半は胚細胞腫瘍であり,本ガイドラインは,「精巣胚細胞腫瘍」の診療に主眼を置いて記載する。精巣癌の発生率は,人口10万人あたり1~2人とまれな疾患であるが,近年では増加傾向が指摘されている(Ⅰ章「1.疫学と危険因子」の項を参照)。小児期にも小さなピークがあるが,最大のピークは30~40歳台であり,40~50歳台がこれに続く。また,比較的早期から転移をきたすことが知られており,悪性度が高いことも特徴の一つである。精巣癌の約50%は,転移を認めないStageⅠのセミノーマであり,経過観察や補助化学療法が選択される。StageⅠの非セミノーマに関しては,経過観察,補助化学療法,即時の後腹膜リンパ節郭清などの選択肢がある。これらの早期精巣癌に関しては,再発の際いかに早く発見できるか,またいかに再発率を低下させるかが主要な課題である。 精巣癌の約30%の症例は,転移を有する進行性精巣癌として認められるが,シスプラチンの導入以降,たとえ転移を認めても,抗癌剤による化学療法が著効し,転移のある症例の80%以上を治癒に導くことができるようになった。特に1997年にInternational Germ Cell Cancer Collaborative Group(IGCCCG)からIGCCC(International Germ Cell Consensus Classification)が発表されて以来,転移を有する精巣癌の治療指針がある程度,整えられたといえる。しかしながら,導入化学療法であるBEP療法が適切に行われなかった場合や,導入化学療法に抵抗性を示す場合には治療に難渋することがあるのも事実である。この場合,救済化学療法が必要になるが,以前から行われていたVIP療法やVeIP療法では満足のいく成績が得られず,大量化学療法が試みられたが,明らかな優位性は証明されていない。新規抗癌剤としては,パクリタキセルやゲムシタビン,オキサリプラチン,イリノテカンといった薬剤が導入され,特にパクリタキセルは本邦でも保険承認されている。また社会保険診療報酬支払基金は適応外使用としてゲムシタビンを転移のある胚細胞腫瘍・精巣癌に対して,二次化学療法としてオキサリプラチンまたはパクリタキセルと併用投与することを審査上認めるとしている。 化学療法後の残存腫瘍に対する方針も非常に重要であり,現状では,可能であれば後腹膜リンパ節郭清などにより残存腫瘍はすべて摘除することが望ましいと考えられる。摘出腫瘍に残存癌を認める場合は,補助化学療法が考慮される。青年期・壮年期に発生し長期生存が望めるため,晩期合併症や生活の質(QOL)に対する配慮が重要となる。このため,精子保存や5年目以降も継続的な経過観察が必要となる。以上のように,精巣胚細胞腫瘍は,転移があったとしても根治の望める数少ない固形腫瘍であるが,一部の症例は難治例となる。また,化学療法後の残存腫瘍摘除には高度な技術が要求されることおよび複数領域の医師による「集学的治療」が必要となることから,経験豊富な施設で系統的な治療が行われることが望まれる。序 章精巣癌治療オーバービュー 1 本ガイドラインについて
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