口腔癌は,舌,口底,頬粘膜,上顎歯肉,下顎歯肉,硬口蓋など解剖学的構造の異なった部位に発生するために,癌の病態や進展様式は各部位によって大きく異なる。そのため治療法も各部位によって異なってくる。口腔癌の外科切除では,咀嚼および摂食・嚥下,発音などの機能面ならびに顎顔面領域の整容面に及ぼす影響も大きいため,術後の患者の機能やQOLを重視した治療体系が望まれ,欠損部については再建術や,上顎では顎補綴も考慮した外科療法を行う必要がある。口腔癌切除における適切な安全域に関しては,10mm以上の安全域を取ることが勧められるが,明確な根拠はない(CQ19:p.116)。口腔癌切除手術で周囲上皮性異形成(特に高度上皮性異形成)を切除することが勧められているが,上皮性異形成のグレードと再発率の関連は明らかでない(CQ20:p.118)。生体染色を用いた上皮性異形成や悪性腫瘍の識別法は有用で,なかでもヨード生体染色の不染域描出による上皮性異形成の識別は特異度が高く有効である。しかし,ヨードは歯肉や口蓋粘膜など角化上皮を染色できないことがある(CQ21:p.120)。術中迅速病理診断を行うことにより,切除断端の腫瘍の有無や頸部リンパ節転移の有無を診断できれば,より確実な外科療法を行うことができる(CQ22:p.122)。摘出標本の病理検査にて,5mm以上の安全域が確保されていれば断端陰性(クリアーマージン)と評価し,5mm未満(部位によっては2mm)の場合は断端近接(クロースマージン)と評価する。切除断端に腫瘍や上皮内癌が存在する場合は断端陽性(ポジティブマージン)と判断する。切除断端陽性の場合,追加切除や放射線あるいは術後化学放射線療法が検討されるが,どちらがよいかを比較した研究はなく,断端陽性の場合の対応は個々の症例および施設の状況に応じ対応を考える必要がある(CQ28:p.136)。以下に,口腔癌のなかでも発生率の高い舌癌ならびに下顎歯肉癌を中心に,各部位における外科療法ならびに気管切開について解説する。舌癌は原発巣の大きさ,浸潤の深さ(DOI)1)および周囲組織への進展により切除範囲が異なる。具体的には,口底浸潤2),舌根浸潤,下顎骨浸潤の有無,程度による3-6)。原発巣の切除範囲が大きければ,皮弁または筋皮弁による再建手術が必要となる。舌癌T1N0,深達度が浅い(DOI<5mm)場合のT2N0,T3N0症例は口内法による舌部分切除術が行われる。深達度が深い(DOI≧5mm)場合のT2N0,T3N0,T4N0症例は(舌部分切除術),舌半側切除術,舌亜全摘術などが行われ,予防的頸部郭清術を行うため,pull-through operationにて頸部郭清組織と一塊として切除することもある(CQ24:p.126)7-14)。頸部転移を伴う症例も 35 Ⅶ-A 原発巣の切除 1 舌癌 Ⅶ 外科療法
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