分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して保湿薬単剤では効果を認めないが,皮膚の状態を健常に保つ目的で,全体の治療の一つである保湿薬を切り離すことはできない。このため分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して保湿薬の外用が一般的に行われている。54Ⅰ.治療編‒分子標的療法BQ分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して保湿薬の外用は勧められるかステートメント 背景・目的 ざ瘡様皮疹は患者のQOLを低下させる。そこで,ざ瘡様皮疹に対する保湿薬外用の有用性について概説する。 解 説 分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に限定した保湿薬外用について,その単独の有用性を検討した報告はわずかである。したがって,エビデンスは乏しい。一般に保湿薬の主たる目的は,皮膚の乾燥を治療・予防することである。したがって,保湿薬がざ瘡様皮疹を予防あるいは治療し得るかどうかは,慎重に検討する必要がある。 ざ瘡様皮疹を含む皮膚障害について,その予防効果が複数の臨床試験で検討されている。いずれも保湿薬を含んだ複数の薬剤を用いて,皮膚障害に対する予防的介入の有用性を示している1)~4)。しかしながら,ステロイド外用薬とテトラサイクリン系薬剤の内服が併用されており,ざ瘡様皮疹に対する保湿薬そのものの予防効果を評価するには至らない。 わが国において,EGFR阻害薬投与時の保湿薬とざ瘡様皮疹の発現を検討した3件の臨床研究が報告されている。ゲフィチニブあるいはエルロチニブを投与された8人の非小細胞肺がん患者で,角層内水分量,皮膚乾燥とざ瘡様皮疹の発現について検討されている。保湿薬の塗布により皮膚乾燥の軽減には効果を認めるも,角層内水分量の変化とざ瘡様皮疹の発現に関連は認められなかった5)。また,セツキシマブあるいはパニツムマブ治療を受ける大腸がんあるいは頭頸部がん患者22人において,ミノサイクリンの予防内服を行ったうえで,保湿薬を予防的に塗布する群と乾燥や落屑の皮膚症状が出現した後に保湿薬を塗布する群の比較試験が行われた。その結果,皮膚乾燥には保湿薬の予防塗布が有効であったが,ざ瘡様皮疹の発現時期,頻度では両群に差を認めなかった。22人が登録され,最終15人で解析が行われており,リスク因子に関する割り付けがなされていない少数例での研究である6)。3つ目の研究はエルロチニブの服用開始と同時に保湿薬を1日3回塗布し,ざ瘡様皮疹の発現頻度,発現までの期間ならびにそのGradeを観察した単群の12例の報告である。結果は,ざ瘡様皮疹の発現率は100%であり,発現までの期間中央値は6日で,Grade最大値は観察期間内でGrade1が67%,Grade2が33%であった。結論として,過去の報告7)と比べてエルロチニブによる皮膚障害に対する保湿薬の外用単独は,ざ瘡様皮疹の発現頻度や発現までの期間を遅延させる予防的効果は期待できないことが示唆された8)。 これらの研究から,ざ瘡様皮疹に対して保湿薬の外用単独だけでは有用ではないと思われる。し12
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