❶ 感染症の成り立ちa 感染と発病c 感染源第9章感 染 症183 感染(infection)とは,病原体(微生物)が宿主(ヒトや動植物)の体内に侵入して増殖することである。感染症とは,感染によって引き起こされるすべての疾病をいうが,人から人に直接または間接的に伝播する病気の場合には伝染病ともいう。感染は宿主に症状が現れない不顕性感染と,明らかに臨床症状を示す顕性感染に分類され,顕性感染が起きた場合,発病または発症という。宿主が病原体に曝露してから発病するまでの期間を潜伏期(incubation period)といい,潜伏期は病原体の種類によりほぼ一定しているため,疫学調査や予防上の意義は大きい。b 感染症成立の条件 疫学の章で学んだ疾病成立のための,病因(agent),環境(environment),宿主(host)の3要因を,感染症について対応させると,感染源,感染経路,感受性宿主となる(図9-1)。これらの関係は,感染源(病原体)→感染経路→感受性宿主に侵入→病原体と親和性のある組織や臓器の細胞(受容体を持っている)に定着→増殖(集落を形成)→顕性感染(発症)または不顕性感染で示される。 宿主の抵抗力に対し病原体の増殖が勝ると発病(発症)し,病原体の力が強いと軽症から重症へと進み,さらに死を迎えることになる。一方,感染しても発症しない不顕性感染の場合,多くのヒトが発病までには至らない。 感染症の発生には,固有の病原体の存在が必要・不可欠である。 病原体はウイルス,クラミジア,リケッチア,細菌,原虫,寄生虫,真菌に大別される。これらは生物と無生物の中間に位置するものや,単細胞生物,多細胞
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