がん患者への栄養治療の目的は,食事摂取量を改善させ代謝障害を抑制し筋肉量と身体活動を増加させることにある。栄養治療によって,がん治療の中断を回避しQOLの向上が得られることが期待できる。がん患者の多くは栄養障害や代謝異常を患っているため,栄養障害が進行しないように定期的にモニタリングを実施することが重要である。がん患者においてはしばしば栄養障害および代謝障害が生じており,それらの障害は予後を悪化させるが適切な処置で改善されることもある1, 2)。栄養状態の評価は,栄養障害の存在を認識し早期にその認識と対策を行っていくために重要である。栄養スクリーニングは簡潔でコストがかからず正確性の高いものでなければならない。栄養スクリーニングはBMIや体重減少そして食事摂取量など直接的な指標で評価することも可能であるが,Nutritional Risk Screening(NRS)2002やMalnutrition Universal Screening Tool(MUST)そしてMini Nutritional Assessment-short form(MNA-SF)など客観的な指標で評価することもできる3)。栄養障害と一言で表しても,それぞれの国において医学的および経済学的な背景が異なっているため,各施設で栄養障害の高リスク患者を定義する必要がある。適切なスクリーニングを行うことによって,無駄な追加のスクリーニングをなくし効果のある栄養治療が可能となる。客観的な閾値をもって評価する栄養スクリーニングは確立されていない。しかし不適切なスクリーニングを行うことによって,がん患者の栄養障害を正確に把握できなくなりさらにそれぞれのがん患者に対して適切な栄養治療ができなくなることを認識しておくべきである4, 5)。大規模なランダム化比較試験(RCT)は存在しないが,前向きコホート試験で栄養スクリーニングによってがん患者の臨床的予後(合併症や死亡率)が改善されることが示唆されている3, 6)。しかし本研究は多種のがんを含んでおり,現在行われているスクリーニング方法をより改良する必要があるという提言になっているかもしれない。食事摂取量が少し減少し高度の代謝障害を呈していないがん患者(頭頸部がん患者や化学放射線療法中の患者)に対して,栄養治療を行うことによって臨床転帰が改善するという報告は散見される7, 8)。このようながん患者に対しては,従来の栄養スクリーニングと適切な栄養治療によって良い結果をもたらすことが期待できる。しかし食事摂取が不十分で高度の代謝障害を伴ってきたがん患者に対しては,栄養治療によって全身状態を若干上向かせるこ52 1 栄養スクリーニング 1 栄養評価栄養評価と治療の実際2
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