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 論

(基礎

-

共通)

Ⓐ 意識混濁(cloudiness of consciousness)

意識混濁の段階

1)錯乱(confusion)

 軽度の意識混濁。なんとなくぼんやりしている状態で,周囲に対する認識や理解は低下し,思考の清
明さや記憶の正確さも失われる。注意力や判断力が欠ける軽度(mild),簡単な質問には答えることがで
きる中等度(moderate),簡単な動作命令には従う重篤(severe)に分けて表現することもある。

2)傾眠(somnolence)

 中程度の意識混濁。この状態は刺激に応じて覚醒するが,放っておくと眠ってしまうものである。

3)混迷(sutpor)

 中程度の意識混濁。これは自発的な身体的・精神的表出はないが,痛みや大きな音,強い光には反応
する状態である(ドイツ語圏で“Sutpor”は意識混濁ではなく,意志発動の障害を表す)。

4)半昏睡(semicoma)

 重度の意識混濁。この状態は強い痛み刺激などに対し,逃避するような反応を示す。

5)昏睡(deep coma,coma)

 重度の意識混濁。この状態は完全な意識消失である。強い痛み刺激に対してもほとんど反応を示さず,
少し手足を動かしたり,顔をしかめる程度の反応があるものをcoma,瞳孔が縮小し,角膜反射,瞳孔
対光反射が消失,括約筋,口蓋帆が弛緩して刺激に全く反応しない状態をdeep comaという。

意識混濁の定量化

1)Japan Coma Scale(JCS)

 意識混濁のレベルを定量化に関して多くの試みがなされているが,わが国では脳神経外科医の太田富
雄らがくも膜下出血患者のフォローから発案(1975年)したJapan Coma Scale(JCS)(

表2—1

)が最

もよく使われている。この方法は意識障害レベルの定量的表現法「3—3—9度方式」と呼ばれ,覚醒(開
眼)している状態をⅠ群(1桁の意識障害),刺激すると覚醒(開眼)するものをⅡ群(2桁の意識障
害),刺激しても覚醒(開眼)しない状態をⅢ群(3桁の意識障害)と3群に分類し,さらに各群をそれ
ぞれ3段階に分け,意識清明(alert)を“0”として全部で10段階に分けて表現したものである。簡潔
であるが,

「覚醒」の条件が「開眼しているかどうか」と曖昧であり,評価者間でスコアにばらつきが大

きいという指摘もある。

2)Glasgow Coma Scale(GCS)

 国際的に最も用いられている定量的な表現法は,スコットランドのTeasdale,Jennettらが頭部外傷
後のフォローから発案(1975年)したGlasgow Coma Scale(GCS)(

表2—2

)である。

 この方法は意識障害の覚醒状況を基本軸に開眼,言語応答,運動応答の3因子に分け,個別に数量化

1

2

表2—1

 Japan Coma Scale

26)

Ⅰ.刺激しないでも覚醒している状態(1桁で表現)

  (delirium, confusion, senselessness)

   1 .だいたい意識清明だが,今ひとつはっきりしない

   2 .見当識障害がある

   3 .自分の名前,生年月日が言えない
Ⅱ.刺激すると覚醒する状態―刺激をやめると眠り込む(2桁で表現)

  (stupor, lethargy, hypersomnia, somnolence, drowsiness)

  10.普通の呼びかけで容易に開眼する

     

合目的的な運動(例えば,右手を握れ,離せ)をし,言葉も出るが,間違いが多い

  20.大きな声または体を揺さぶることにより開眼する

     

簡単な命令に応じる。例えば離握手

  30.痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する
Ⅲ.刺激をしても覚醒しない状態(3桁で表現)

  (deep coma, coma, semicoma)

  100.痛み刺激に対し,はらいのけるような動作をする

  200.痛み刺激で少し手足を動かしたり,顔をしかめる

  300.痛み刺激に反応しない
注)R:restlessness,I:incontinence,A:akinetic mutism, apallic state

  例 100—I;20—RI 

何らかの理由で開眼できない場合

(太田富雄,ほか:意識障害の新しい分類法試案.脳神経外科2:623—627,1974より引用)