最大数の運動単位が同時に関与する。遠心性インパルスが同期する。運動単位の活動リズムが同期する。現在では学生の受ける教育も高度なものとなり,単純な治療選択では誤りが多いことも周知のこととなった。しかしながら,臨床をみているとせっかくの高度な医学知識も上手く利用できているかというと,疑問をもたざるを得ない場面も多い。例えば関節運動学などは微に入り細に入り関節一つひとつの動きを教授しているが,さて実際に臨床で使用するにはどうするか? というところまでは指導できていないのではないだろうか。整形外科疾患の理学療法は,筋力増強や可動域増大など基本的なものが多く,それぞれを正しく理解・遂行できれば他の疾患においてもさして問題なく活用できる。そこで,ここでは基本に立ち返りつつ,臨床での工夫を交えた理学療法を紹介していくこととする。 筋力増強に必要な基本原則として,以下のものがよく挙げられる。 上記の基本原則を満たすためには,最大筋力あるいはそれに近い負荷(最大下負荷)を必要とする。最大筋力に満たない負荷ではすべての運動単位が参加しているわけではない。参加している一部の運動単位が疲労すると他の運動単位に交替し,活動を長期にわたり行うことができるが,これは持久力の範疇となる。しかしながら,最大筋力を発揮するような負荷を与えることは困難である。それは強靭な精神力(集中力)と筋活動の統合を必要とするが,臨床で目の前にいる患者にそれだけのものを要求するのは不可能である。また,最大負荷は筋肉や関節の損傷を伴うこともあり,危険でもある。そこで,最大筋力に近い負荷を繰り返し与える方法が使われることとなる。それにより個々の筋繊維は徐々に張力を低下し,最終的には全運動単位が参加しなくては負荷に抗することができなくなる。これにより,最大筋力を発揮したのと同じ現象が起こる。しかし,負荷が少な過ぎると,個々第1章 理学療法を行う前に知っておくべきこと20はじめに筆者が学生の頃の実習では,筋力低下があるから筋力増強,関節可動域制限があるからストレッチングという安易な対応でも許されていた。当時の基礎的な医学知識が,現在のものと比べかなり低かったことが要因であると筆者は考えている。1)●筋力増強の基本原則Ⅱ.理学療法
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