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乳がん・婦人科がん第6章1 上肢機能低下に対するリハビリテーション治療の効果図6-1センチネルリンパ節(イラスト中の・)とは,「見張りリンパ節」とよばれ,腫瘍からのリンパ流を最初に受けるリンパ節である。腫瘍近傍数カ所に色素やアイソトープなどのトレーサーを注射し,腋窩でそれらトレーサーを検出した後,その部位に2〜3cmの皮切を加えてトレーサーを含むリンパ節の生検を行う。このセンチネルリンパ節への転移が陰性であれば,乳がん手術時の腋窩リンパ節郭清は行われない(腋窩温存)ため,腋窩の損傷は最小限となり,肩や上肢の機能障害の頻度は少なく,程度も軽減化する。図6-2腋窩リンパ節郭清では,腋窩に皮切をし,リンパ節を周囲の脂肪組織とあわせて切除する。皮切による腋窩のひきつれ,軟部組織の損傷と瘢痕化により,上肢の動きが制限される。乳がんにおいては,原発巣(乳房)に最も近いリンパ節が腋窩リンパ節であり,浸潤がんでは診断的な意味でも,治療的な意味でも腋窩リンパ節郭清を要することが多い。センチネルリンパ節生検(図6-1)が一般化した近年では,広範囲の腋窩リンパ節郭清を行うケースは減ってはきているものの,現在でも浸潤がん手術例の40〜70%程度で腋窩リンパ節郭清が行われている1)。わが国で2015年度に登録された87,038例のデータでは,乳がん全体の約27%で腋窩リンパ節郭清が施行されていた2)。腋窩リンパ節郭清では,腋窩の皮膚を切開し,軟部組織を損傷する(図6-2)ことにより,術後には肩関節可動域制限が<1〜67%3)で起こり,適切なリハビリテーション治療を行わないと可動域制限が数カ月〜数年間持続するとされる。肩関節可動域制限の程度は報告により差はあるが,術後1カ月で術前より屈曲方向で30〜40°,外転方向で30〜60°程度可動域が低下し,6カ月後でも屈曲方向15〜20°,外転方向10〜30°程度の制限が残るとされている4-7)(図6-3)。可動域制限により上肢が使用しづらいことや,不安感などからくる患肢の過度の安静から,上肢の筋力低下も9〜28%でみられる3)。また,上肢の疼痛も9〜68%に生じることが報告されている3)。疼痛については,成因がはっきりしていないが,上肢の関節可動域制限や筋力低下があるために二次的に生じているもの,リンパ浮腫に関連して生じているもの,心理的要因など,さまざまな要素が関与していると考えられている。数カ月で疼痛が軽減していくとも,数年で徐々に疼痛を訴える患者が増えていくとも報告されている1)。このように,乳がんの手術が低侵襲化した近年でも,腋窩リンパ節郭清が必要とされる例は多く,術後センチネルリンパ節生検腋窩リンパ節郭清103●なぜ必要なのか?ベストプラクティス

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