乳がん・婦人科がん第6章1 上肢機能低下に対するリハビリテーション治療の効果を渡すだけの場合よりも,個別に包括的リハビリテーション治療を行った方が肩関節可動域などの改善が認められる4-9)ことから,可能であればリハビリテーション専門職が入院中に関節可動域訓練や筋力増強訓練を行い,その経過をもとに退院後の自主トレーニングの指導書を渡すことが望ましい。生活指導に関しては,乳がん看護認定看護師をはじめ看護師からもリハビリテーション専門職からも行われることが必要であるが,統一した指導ができるよう,共通したパンフレットの使用やスタッフ間のコミュニケーションが重要である。2.いつ行うのか?生活指導は,術後に関節可動域訓練や上肢筋力増強訓練を行うこと,また,それらの意義の説明も含めて,術前から行うことが望ましい。一般に,術前から「術後も患側上肢を動かした方がよい」といった大まかなイメージをもてている方が,その後のリハビリテーション治療の効果があがりやすい。積極的な(最大可動域まで動かすような)肩関節可動域訓練の開始時期は,術後5〜8日後からがよいとされている。術直後からでなく,5〜8日遅らせて開始した方が,最終的な関節可動域を悪化させることなく,術部の感染や創治癒の遅延を減らすことができる3, 10-13)。上肢筋力増強訓練の開始時期に関しては明確な指針はないが,術後0〜4日は手指などの軽度の筋力増強訓練とADL内での使用に留め,5日目以降,積極的な関節可動域訓練の開始とあわせて,肩周囲筋から上肢全体の筋力増強訓練を開始することが妥当と考えられる。入院は概ね10日程度の期間であることが多く,十分なリハビリテーション治療・指導が困難な場合もあり,退院後6〜8週間程度は外来でリハビリテーション治療を継続することを勧めている報告もある6, 7)。関節可動域訓練は6〜12カ月程度(軟部組織の治癒が得られるまでの期間)の期間継続することが望ましいとされる4)。3.どこで行うのか?リハビリテーション治療場面で上肢運動を行っていても,実際の生活場面では患肢を反対側で支えて全く使用していない状況が観察されることがあり,生活指導は実際の病棟生活場面でも行われることが必要である。関節可動域訓練や筋力増強訓練は,入院中にリハビリテーション室などで行われることが多いが,術後5〜8日目で開始すると,入院期間は概ね10日前後であるため,数日間しかリハビリテーション治療期間がない。リハビリテーション治療場面で指導された自主トレーニングの内容を病棟で実際に患者に実施してもらい,チェックするなどして自主トレーニングの定着を図る必要がある。退院後は,在宅で継続するよう指導するが,定着が不十分であった例などは外来でリハビリテーション治療を継続する。ただし,上記のように,関節可動域訓練は6〜12カ月程度の期間継続することが望ましいとされ,最終的には在宅で自主トレーニングとして継続してもらう。上肢筋力低下や疼痛は慢性期にも残存し,場合によっては悪化していることもあるため,退院後の外来では長期間にわたって自主トレーニング継続を励行し機能障害のチェックを行うことが望ましい。後項で述べるように,乳がん治療後の患者は積極的な運動療法(筋力増強訓練や有酸素運動)の実施が望ましく,地域のスポーツセンターや病院のリハビリテーションセンター,在宅での運動療法の実施が勧められているが,それらの運動前に関節可動域訓練を取り入れるなどして上肢機能に関するリハビリテーション治療も継続しやすくする試みがある。術直後には,腋窩にはドレーンが挿入されている。術直後から積極的な関節可動域訓練開始までの間(術後0〜4日)に関しては,肩関節をなるべく動かさない方がよいのか,ある程度(90°程度まで)動かす方がよいのか,明確な指針は得られていない。ベッド上では肩-上肢全体をやや高い位置に置いた良肢位とする。アームスリングや三角巾での上肢の固定はしない,軽度の筋力増強訓練としてボールを握るな●どのような方法で行うのか?1.生活指導105
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