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乳がん・婦人科がん第6章1 上肢機能低下に対するリハビリテーション治療の効果表6-1手術した側の上肢を使って以下のことが可能ですか。 1. 髪をブラシや櫛でとかすことができますか? 2. Tシャツやボタンを外せないブラウスや,首のところがタイトなセーターを着られますか? 3. ズボンをはいて,引っ張り上げることができますか? 4. 後ろで留めるタイプのブラジャーをつけられますか? 5. ドレスの背中のファスナーを上げることができますか? 6. 患側の背中の上の方(肩甲骨の辺り)を洗うことができますか? 7. 対側の背中の上の方(肩甲骨の辺り)を洗うことができますか? 8. 頭より高いところの食器棚に手が届きますか? 9. ダブルベッドのベッドメーキングができますか? 10. 10ポンド(約4.5kg)の日用品の入ったバッグを持てますか?これら10項目について,0(困難なくできる)〜4(行うことが困難)までの5段階評価を行う。(Wingate L. Efficacy of physical therapy for patients who have undergone mastectomies. A prospective study. Phys Ther. 1985; 65: 896-900.より引用改変)項目3.筋力増強訓練関節可動域訓練と併行して,上肢の筋力増強訓練を行う。負荷量は,早期のリハビリテーション治療(入院中)では,概ね自重から軽く負荷をかける程度(自動での関節可動域訓練から軽い徒手抵抗まで)で行われている報告が多い4-9)。可動域が安定し,運動方法を習得するまでは,重錘やエクササイズバンドなどで負荷をかけての筋力増強訓練はリスクが高い可能性がある(行ってはならないというエビデンスもない)。周術期以降は,ウェイトリフティングなどの負荷の強い筋力増強訓練でもリンパ浮腫のリスクは上がらないとされ14),後述の運動療法の項でも有酸素運動とあわせて四肢の筋力増強訓練を行うことが勧められている。ただし,強い負荷で疲労物質が蓄積すると上肢に炎症を起こしているのと同様でありリンパ浮腫の発症・増悪を引き起こし得る,ともいわれているため,「翌日に疲労を残さない程度」の負荷量として,注意深く観察していく必要がある。なお,腋窩リンパ節郭清を伴う乳がん術後のリハビリテーション治療についてはさまざまな研究がなされており,その進め方や効果が明らかとなっている。一方,センチネルリンパ節生検を施行して腋窩リンパ節郭清を省略した場合のリハビリテーション治療については,現時点で十分なエビデンスはない。しかし,腋窩リンパ節郭清を省略した場合でも肩関節可動域制限が生じる場合があり,また後述の通りリンパ浮腫が生じる可能性がある。したがって,これらの患者に対しても腋窩リンパ節郭清を伴う乳がん手術を施行された患者に準じたリハビリテーション治療を行うことを考慮してもよい。ただし,腋窩リンパ節郭清の省略例もすべてリハビリテーション専門職による個別のリハビリテーション治療が必要か,また術後0〜4日の間に積極的な肩関節可動域訓練を行ってはいけないか,などについては今後さらなる検討が必要である。このような包括的リハビリテーション治療を実施すると,実施しない群に比べ,術後6カ月の肩関節可動域は,屈曲方向で13〜18°,外転方向で20〜26°良好となる4-9)。上肢でのADLの能力のスコア[*注1]は,術後1カ月,6カ月においても包括的リハビリテーション治療を実施した群の方がよい4-9)。特に体を掻く,シャツを着る,ブラジャーをつける,スカートなどのファスナーを上げる,髪をとかす,といった項目では,2年後においてもリハビリテーション治療をした群の方が動作能力は高かった4)。表6-115)に,乳がん術後の上肢機能評価の一例を示す。包括的リハビリテーション治療実施によって,術後の有害事象(しょう液腫・創離開・感染)は増え上肢機能評価107●リハビリテーション治療の効果は?

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