A. 心構えの基本「この人と一緒に練習したくない」と防衛の気持ちが強くなり,リハビリテーションの効果を減らす可能性があります。これまでに筆者が経験した例を話します。患者のニードは,「麻痺手の機能を向上させて生活の中で使えるようになりたい」でした。患者は麻痺手のリハビリテーションを行いたいのに,リハビリテーションの担当者は,立ち上がり練習や歩行練習ばかり行っていました。最終的には,患者からリハビリテーションの拒否があり,担当者を変更しました。この事例の場合,患者とリハビリテーションの担当者の間で信頼関係が築けておらず,患者のニードを引き出すことができなかったため,患者の希望から外れた練習内容を実施していました。効果的なリハビリテーションの実施には,患者との信頼関係を築くことが不可欠です。傾聴は,自分を受け入れてくれる,自分を理解しようとしてくれるという安心感を生み,信頼関係を築きます。医療従事者は,基本的には「待てる」姿勢を貫き 3),相手を理解し必要があれば何らかの介入ができる立場にあることを伝える必要があります。そのためには,患者との初対面時には,話を傾聴し,受容的態度を示すことが最も重要です 4)。傾聴の基本に,「心構え」と「スキル」があります。傾聴力を提唱したカール・ロジャースは,傾聴力を高めるために3つの要素が必要としています 5)。その傾聴の3大要素とは,「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」です(表25)。すべてが傾聴に重要であり,傾聴力の高いコミュニケーションに欠かせません。152D 実践的なコミュニケーション術表24 聴く力のチェックリスト 2)□①話し合いのとき,相手の視点で物ごとを見るようにしている□②話し合いのとき,相手に注意を集中し漏らさずに聴くことができる□③話し合いのとき,相手より多めにしゃべってしまう傾向は低い方である□④話し合いのとき,相手の表情などにも目を向けている□⑤話し合いのとき,相手が話している奥の意味まで,深く聴きとろうとしている□⑥話し合いのとき,相手の言っていることについて,すぐ良い,悪いを言わないようにしている□⑦話し合いのとき,相手が話し終わるのを待ってから,それに対する考えを言うようにしている□⑧話し合いのとき,相手と気まずい雰囲気になりそうな沈黙があっても恐れることはない□⑨相手の言っていることがよくわからないとき,しっかり問い返すことができる□⑩実際には聴いていないのに,相手に対して聴いているようなふりはしていないチェックが3~5つ:コミュニケーションスキルの基盤が少しできており,成長途上にあります。繰り返し実践の中で練習していきましょう。チェックが6~8つ:聴く力がある人です。相手に正確な情報が伝わり共有する機会が増えます。チェックが9つ以上:聴き上手です。周りのモデルとなり,影響力のあるコミュニケーションを展開できます。4)傾聴に徹する
元のページ ../index.html#3