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1呼吸の基礎と呼吸不全 ここでは呼吸器系,すなわち肺の機能の補助または代行について解説する。肺は空気中の酸素を取り込んで,二酸化炭素を排出することが主要な機能である。 呼吸に関する補助,治療が呼吸療法であり,酸素療法,薬物療法,呼吸理学療法,肺に空気(+酸素)を送り込む人工呼吸療法,さらに酸素を1気圧以上に加圧して血中酸素を増加させる高気圧酸素療法がある。これらの呼吸療法で,酸素と二酸化炭素が空気相と血液相との間で移動(ガス交換)する場をみると,生体肺の肺胞を利用している。肺胞でのガス交換を代行して,酸素を血中に取り込める装置には膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)がある。重症例ではこれを用いることもある。膜型人工肺を用いる方法は体外循環回路を使用するので,これについては次項(体外循環装置)で詳述する。 A 呼吸器系の解剖と生理 呼吸器系の解剖と生理については第1編Ⅰ章「G.人体の構造および機能」で解説されているので,ここでは主に人工呼吸に関連する事項について記載する。 呼吸は無意識のうちに行われているが,実際には呼吸中枢の指令によって,睡眠中もほぼ規則的に行われている。すなわち成人の自発呼吸は,1分間におよそ15回,1回の空気の出入り(1回換気量)は400~500 mLである。 肺は自身では動くことができない。図1のように,肺は胸郭でつくられる空間である胸腔の中に納まっている。呼吸中枢の指令は横隔膜などの呼吸筋を収縮させ,胸郭が拡張しようとする。胸郭は閉鎖空間を形作っており,これが拡張しようとすると,胸郭の中の圧力である胸腔内圧(Ppl)が低下する。肺は胸腔の中にあるので,肺からみると外側の圧力が低下する。肺は気道を通して大気に繋がっているので,肺外側の圧力低下のため,内側圧力のほうが高くなり,肺の中への空気流入を伴いながら肺は拡張する。 呼気は呼吸筋の収縮が解除され,胸郭を外に引っ張る力がなくなり,胸郭・肺の弾性によって収縮し,肺内の空気は呼出される。図2aは自発呼吸が行われるときの各部の圧力変化を示す。なお,気道に陽圧をかける人工呼吸の場合は,模式的には図3のようになり,加圧してガスを送り込むことで肺が膨らむ。その結果,自発呼吸のときとは各部の圧力は異なり,図2bのようになる。 B ガス交換と呼吸不全 1 ガス交換 肺はガス交換の場であり,気道は気管~気管支で22回分岐し,末梢には約3億の肺胞が存在する(図4)。ガス交換を行う総面積はおよそ70~80 m2になる。このようにガス交換をする肺胞それぞれに空気が到達し,肺血流が流れている。そして酸素が血液に,二酸化炭素が肺胞に出てくる。これがガス交換であるが,呼吸生理学では図5のように単純化して,しばしば一つの肺胞ユニットとして考察される。 健常人が標準大気圧(1013 hPa)下で空気呼吸の場合,以下の肺胞気式により,PAO2=(760-PH2O)×FIO2-PaCO2/0.8 (760は標準の大気圧[mmHg],PH2Oは通常37℃飽和水蒸気圧,FIO2は吸入気酸素濃度0.8はガス交換率) 肺胞気酸素分圧PAO2は約100 mmHgである。そして動脈血酸素分圧PaO2は95~100 mmHgで第2編 専門科目第2編348生体機能代行装置学A.呼吸療法装置Ⅰ

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