5Müller筋タッキングにしろ挙筋短縮術にしろ,丁寧に手術を進行すれば,ターゲットとなる組織(前者:Müller筋,後者:挙筋腱膜)は必ず見つかる。高度の眼瞼下垂で組織が変性していても,それらは必ず順番通りに現れるからである。ただし,顕微鏡下であれ肉眼(ルーペ)であれ,出血が多いと組織の確認が難しい。3通常の腱膜性眼瞼下垂であれば,術後における視野の改善は程度の差こそあれほぼ約束される。一方で,整容の改善は約束されない。これが眼瞼下垂手術における最大の難点である。以前に筆者が調べたデータでは,自身で行った眼瞼下垂手術の再手術率は約5%であり,その内訳は主に左右差による整容的問題が約4%,挙上不足による機能的問題が約1%であった。筆者の経験では,術前のMRDが左右とも0mmである患者を3mmまで改善させようと計画し,結果的に術後のMRDが左右とも2mmになった場合,眼瞼形態に左右差がなければ多くの患者は再手術を希望しないが,同様のケースで術後のMRDが2.5mmと3.5mmになったならば,前者よりも良好な機能改善にもかかわらず,修正手術を希望することがある。つまり,眼瞼下垂手術の最大の難関は,術後の結果が約束されない整容面であり,特に左右差の解決が患者の満足を得る最大のポイントといえる。6筆者は20年以上にわたり眼瞼下垂手術を行ってきたが,予定通りに眼瞼を挙上できないことはいまだにある。その場合,手術を終えるタイミングが重要になる。筆者はMRDの改善度が術前に立てた目標まで達しない場合であっても,手術時間を決めて終了している。その目安は,通常の手術時間の約1.5倍,つまり,筆者の眼瞼下垂4筆者は,術前に左右差がない眼瞼下垂では,原則として手術を両側同時に行い,加えて操作をひとつずつ交互にすることで,術後の左右差を減らすよう務めている。一方で,術前から明らかな左右差がある場合は,そもそも術後に左右差が生じやすい傾向があることより,重症側から左右別々に行う方針でもよいが,へリングの法則に従ったシーソー現象が術前のシミュレーションで生じる場合は,同時手術が望ましいと考える。(挙筋腱膜単独の短縮),挙筋群短縮術(挙筋腱膜とMüller筋双方の短縮)などと区別されるが,各術式の結果に対する差異に一定の見解はない3)。その対策として,眼科では挟瞼器の使用が一般的であるが,皮膚切開(切除)を短くせざるを得ないことが大きな欠点となる。筆者は眼瞼下垂手術において術後の重瞼形態を整えるためには,若年者を除き挟瞼器のサイズを超えるおおよそ3〜4cmの皮膚切開(切除)が必要と考えている。また,挟瞼器を使用する際には通常より多くの局所麻酔薬を必要とすることも,手術直後の整容的評価を難しくする。他方,術野の確保に牽引糸を用いる術者もいる。筆者は1本の牽引糸のみで手術を行っているが,創に強い緊張を掛ければ十分な止血効果が得られ,また,術野は広く自由度も高いため,確実な手術操作に有利である。さらに,挟瞼器を外したときのような1度にまとまった出血も生じない。挟瞼器にも多くの利点があるため,一概に優劣はつけられないが,少なくとも皮膚切開から組織の展開までの短時間における挟瞼器の使用であれば,必要性は低いと考える。1094眼瞼下垂手術の目的は機能改善か整容改善か?左右同時に行うか, 片側ずつ行うか?挟瞼器の使用に関する私見手術が順調に進まない場合の判断
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