Ⅱ3精神面の課題図 DSM-5とICD-11の成人における神経性やせ症の重症度判定基準の比較1.摂食障害(摂食症)14最重度危険な低体重を伴う(23)1043産婦人科の実際 Vol.71 No.10 202218.5DSM-5軽度ICD-11BMI(kg/m2)1716中等度重度有意な低体重を伴う15栄養状態の改善が必要である5)。有効性の示された薬剤は開発されていない。心理社会的治療としては青年期の患者では適切な食事摂取を家族が促せるようになることを目標とした家族療法,成人患者に対しては認知行動療法などの個人精神療法が推奨されている6)。ただし,いずれにおいても適切な栄養療法により体重を回復させ,患者の全身状態が安定していることが前提とされている。 回避・制限性食物摂取障害(avoidant/restric-tive food intake disorder;ARFID)もまた食事量の減少から低体重に至る疾患である。ANと異なる点は患者に体重・体型への過度のこだわりやボディイメージの歪みがないことである。ARFIDにおいて食事量が減少する理由は一様ではない。食べることへの興味の喪失,食品のにおい・味・温度など感覚的特徴への嫌悪,食後に発生する窒息や嘔吐などの不快な体験への懸念が挙げられるが,これ以外の理由や複数の理由が混在することもある1)。ARFIDはDSM-5で新たに確立された概念であり,ICD-11でも採用された3)。従来は乳幼児期や小児期に特異的な病態と考えられており,ICD-10では乳幼児期および小児期の哺育障害に分類されていた。そのため,青年期以降に同様の病態を示す症例は他の摂食障害と診断されていた。発症年齢による診断基準が設けられなかったことから,すべての年代の患者に対して診断が可能になった。ARFIDは新しい疾患概念のため大規模な疫学研究はないが,他の摂食障害と比較して男性例が多いとされる。患者にはやせ願望が存在しないため,栄養補助食品の使用などによって標準体重を維持することが可能な場合もあるが,栄養障害が高度な場合,前述の飢餓症候群の影響も加わり,ANとの鑑別が困難なことも少なくない。回避・制限性食物摂取症/回避・制限性食物摂取障害(ARFID)神経性過食症/神経性大食症(BN)4 神経性過食症(bulimia nervosa;BN)の患者は自身では抑えのきかない食欲に駆られ,短時間で大量の食事を摂取する過食(むちゃ食い)を繰り返す。一方で,ANと同様に自己評価の基準は体型・体重に過度に依存している。そのため,患者は体重の増加を防ぐために過食後に不適切な代償行動を行う。週に平均して1回以上の頻度で行われる過食と代償行動が,DSM-5では3カ月,ICD-11では1カ月以上持続する場合にBNと診断される。なお,代償行動の頻度が高いほど,重症度が高いと判定される1)3)。精神病理や食行動の異常は過食排出型のANに酷似しているが,BNでは体重が正常範囲内あるいは軽度肥満にとどまる。ただし,経過とともに臨床像が変化し,ANとBNとのあいだで互いに診断が移行する場合があることが知られている。ANと同様,BNでも低カリウム血症,月経不順,動悸,倦怠感,腹痛,便秘,消化器症状,歯のエナメル質の侵食など多くの身体合併症を引き起こす場合がある7)。過食と不適切な代償行動には苦痛を伴い,抑うつや自尊心の低下を
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