1 子宮内膜症は,初経後の女性に発生するが,初経がない5人の少女(8.5~13歳)に子宮内膜症が発生したという報告がある5)。この女児はいずれも慢性骨盤痛を有し,消化器系の検査はすべて陰性であったが,腹腔鏡下に切除した病変に内膜症組織がみられた。また,術後に慢性骨盤痛は改善した。この症例からはSampsonによる月経血の逆流説が否定されることになるが,近年のBrosensらのレビューによると逆流説以外のメカニズムがあることも示されている6)7)。また,新生児の子宮出血の逆流という現象が初経前の子宮内膜症に寄与する可能性について提唱されている。初経前の子宮内膜症,あるいは思春期の子宮内膜症は新生児期の子宮出血によって排出された幹細胞が活性化することによって発症する説があるのも知っておきたい。1118(98)要 旨 思春期女性における子宮内膜症は多彩な症状を呈する1)。下腹部痛や子宮以外の骨盤内の諸臓器による症状がみられる場合は,子宮内膜症を念頭に診察し,炎症性腸疾患や骨盤内感染症,卵巣腫瘍などとの鑑別が必要である。問診および超音波などの侵襲が少ない検査によって診断が困難な場合はまずはホルモン剤による薬物療法を優先する。薬物療法抵抗性やどうしても必要なときに腹腔鏡手術を考える。赤色病変のような活動性の子宮内膜症病変を認めた場合は,切除することで症状の改善につながることが多い。薬物による対症療法においては,患者との長期的なかかわりを視野に入れつつ,OC/LEP,ジエノゲストなどを用いて副作用に留意しながら治療を行う。1人ひとりの女性が心身ともにwell-beingに生きられるように,患者の年齢や症状に合った個別治療が求められている。小松宏彰*1 谷口文紀*1 原田 省*2*1 H. Komatsu, F. Taniguchi 鳥取大学医学部産科婦人科学分野 *2 T. Harada 同大学医学部附属病院Ⅳ.婦人科腫瘍・婦人科疾患への対策は じ め に 子宮内膜症は生殖年齢の約10%にみられ,主症状は疼痛(月経困難症)である。後方視的研究ではあるが,慢性骨盤痛を認める思春期女性の25~38%に子宮内膜症がみられることが報告されている2)。そもそも思春期女性における月経困難症は機能性月経困難症であることが多いものの,実際は診察自体がはばかられることもあり,器質的月経困難症との鑑別は難しい。一方,器質的月経困難症の最も多い原因は子宮内膜症であり,適切な診断は将来の不妊やQOLに直結するため,経直腸超音波検査や骨盤部MRIを行う。特に,思春期に薬物療法を行わなかったために,重症化するリスクがあることも熟知しておく必要がある3)。「子宮内膜症取扱い規約第2部診療編」のCQ2を参考に,思春期子宮内膜症の管理について概説する4)。思春期子宮内膜症思春期子宮内膜症の対応4
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