スポーツとヘルスケアⅧ骨 1.AYA世代におけるアスリートの課題と対策消化器系心血管系精神発育発達図2 スポーツにおける相対的なエネルギー不足low energy availability(利用可能エネルギー不足)*2007年以前は摂食障害低栄養低体重FemaleAthleteTriad骨粗鬆症低エストロゲン状態黄体化ホルモンの律動的分泌が抑制無月経米国スポーツ医学会免疫系月経RelativeEnergy三主徴DeficiencyIn Sport内分泌代謝血液10代でより疲労骨折のリスクが高く,10代の女子選手では,続発性無月経12.9倍,低骨量4.5倍,利用可能エネルギー不足1.1倍,疲労骨折のリスクが高い結果となった4)。疲労骨折の好発年齢は,競技レベル問わず16~17歳であり,10代からTriadの起点であるLEA/RED-Sを予防することは障害予防の観点からも重要となる。2.LEA/RED-Sの診断 無月経の原因を鑑別することは,その後の治療方針に大きく影響を与える(図3)。LEA/RED-Sに伴う無月経では,LH優位のゴナドトロピン低下を示すことが特徴であり,当科では,LH値3 mIU/ml以下を目安にLEA/RED-Sと判断している。また,治療の際はLH値を指標にLEA/RED-Sの改善を評価していく。LEA/RED-Sや1年以上無月経の状態にある選手では,年齢にかかわらず骨密度の測定を行うべきである。骨密度は二重エネルギーX線吸収測定法(dual-energy X-ray absorptiometry;DXA)で測定することが推奨され,最大骨量獲得前の10代では,若年成人平均値(young adult mean;YAM)値で評価を行うと低値を示すため,同年齢との比較であるZ-scoreでの評価を行う。筆者らの調査では,「10歳代で1年以上無月経を経験している選手」と「BMIが低い選手」は低骨量のリスクが高く,これらのいずれかを認める選手においては,現在月経周期が正図1 女性アスリートの三主徴(文献1より作成)産婦人科の実際 Vol.71 No.10 2022常であっても一度骨密度を測定すべきである5)。 ACSMのガイドラインをもとに,年齢問わず荷重部位である腰椎の骨密度を測定し,Z-score -1未満であればアスリートの低骨量と診断している1)。TriadやRED-Sに伴う無月経の選手においても,新体操や体操のように競技特性上,腰椎への強い衝撃が加わる部位の骨密度は低値を示さないケースが多く,骨密度を評価する際は競技特性を考慮する。3.LEA/RED-Sに伴う無月経の治療1)非薬物療法 治療の大原則は,運動によるエネルギー消費量を減らす,かつ(または)食事からのエネルギー摂取量を増やすことである1)。LEA/RED-Sによる無月経の選手では,月経周期正常群と比較し明らかに炭水化物の摂取量が少ないため,炭水化物を中心にエネルギー摂取量を増やすよう指導する。栄養士の指導を受ける環境にない場合は,アスリートの糖質摂取ガイドライン(表)を提示し6),現在の糖質摂取量や1日の糖質の摂取目安量を選手自身に概算してもらい,実際の糖質量の不足分を計算させ指導する方法も参考にしたい。LEA/RED-Sの改善には,トレーニング量を減らし運動によるエネルギー消費量も同時に減らすほうが効果的である。 このような非薬物療法によるLEA/RED-Sの(文献7より作成)(175)1195
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