表 性別不合におけるホルモン療法性別不合・性別違和・性同一性障害3 トランス女性(male to female:MTF当事者)ではエストロゲン製剤が使用される(表)。テストステロン値が100 ng/dl未満を目安とするが,臨床的な変化が治療効果の参考となる。陰茎勃起の抑制,乳房腫大などの体型の女性化などがみられるが,ひげの減少や声の高音化は限定的で,脱毛やボイストレーニングが行われる2)5)6)。筋肉量・筋力の低下が起こるため仕事やスポーツへの影響に配慮する。勃起の抑制,精巣重量や精子形成の減少を伴うため,(パートナーがいる場合には一緒に)性交や妊孕性についての説明を行う。 トランス男性(female to male:FTM当事者)ではアンドロゲン製剤が使用される(表)。月経は停止,ひげや体毛は増加,身体は筋肉質とな2 治療の目標は「自分らしく生きること」である。身体への違和感が強い場合は,ホルモン療法や手術療法が行われるが,割り当てられた性への違和感が強い場合は,医療のみでは解決しない。学校での制服,トイレ,更衣室,体育や2.産婦人科における対応(185)1205産婦人科の実際 Vol.71 No.10 2022トランス女性エストロゲン製剤抗アンドロゲン製剤トランス男性アンドロゲン製剤二次性徴抑制療法GnRHアゴニスト製剤皮下注リュープロレリン酢酸塩二次性徴完成後の月経停止などGnRHアゴニスト製剤皮下注リュープロレリン酢酸塩投与法一般名経口17β—エストラジオール経皮17β—エストラジオール・パッチ100~400μg 週2回張替え17β—エストラジオール・ジェル1.0 g/日筋注吉草酸エストラジオール経口スピロノラクトンフィナステリド筋注エナント酸テストステロンプロピオン酸テストステロン2.0~6.0 mg/日10 mg/2~3週ごと,20 mg/2~4週ごと100~200 mg/日5 mg/日125 mg/2~3週ごと,250 mg/2~4週ごと30μg/kg/4週ごと症状に応じて180μg/kg/4週ごとまで増量可能1.88~3.75 mg/4週ごと(成人量)(年齢・体重によっては減量)用法・用量の例認する。 ICD-11では,性別不合が精神疾患から外れたが,ホルモン療法や手術療法を行うことで不利益を受けないかという視点で,本人とともに性自認を確認することは重要である。日本においては,全国の産婦人科診療所でホルモン療法が実施されているが,ジェンダークリニックなどの専門医療施設と連携して,あるいは,各地域で関連の診療科が連携したチームのなかで実施することが望ましい。 出生時に割り当てられた性が明らかなのに,身体の性を確定する必要があるかという議論も成り立つが,ホルモン療法や手術療法,その後の生殖医療などを考慮すると診察や検査をしておくことには意義があると考える。水泳など,トランスジェンダーの子どもの課題に関しては,2015年に文部科学省が通知を出しており,医療チームの関与も求めている1)。就労に関しても,意見書を書いたり職場と打ち合わせたりする4)。自分らしく生きるための治療ホルモン療法と産婦人科医Ⅸ
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