Ⅴ女性医学産婦人科の実際 Vol.73 No.11 20241461よって,同様に腟萎縮の状態になる。また,低エストロゲン状態以外にも喫煙や性交渉の回避などは腟萎縮の増悪因子となる2)。 438名のオーストラリア人女性(45~55歳)を対象とした7年間にわたる縦断的研究(Mel-bourne Women’s Midlife Health Project)によると,腟乾燥の有症状率は閉経前の3%から閉経後3年で47%と,急激に上昇する(図1)3)。寺内公一M. Terauchi 東京科学大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座(教授)疾患の概要 日本では現在でも「萎縮性腟炎」という呼称が使われることが多いが,海外では以前から「外陰腟萎縮」(vulvovaginal atrophy;VVA)が一般的であり,さらに2014年には「閉経関連泌尿生殖器症候群」(genitourinary syndrome of menopause;GSM)という用語が導入されている。 生殖期には,腟上皮細胞はエストロゲンの作用によってグリコーゲンを含有しており,同細胞の剝離によって腟腔に放出されたグリコーゲンは腟常在菌であるDöderlein乳酸桿菌によって乳酸へと代謝される。その結果として腟内は酸性(pH 3.5~5.0)に保たれ,常在菌以外の菌は成育しにくくなっている。一方閉経に伴って血中エストロゲンが低下すると(卵胞期前期の血清エストラジオール濃度平均約60 pg/mlから閉経後の平均約20 pg/mlへ1)),腟上皮細胞の増殖が停止して腟粘膜は菲薄化し,腟乾燥感・性交痛・出血・下部尿路症状などを呈する原因となる。また腟上皮細胞内のグリコーゲン含有量が低下すると,腟常在菌である乳酸桿菌が減少して腟内のpHが上昇し,皮膚や直腸に由来するグラム陰性桿菌やグラム陽性球菌が増殖して細菌性腟症の状態となる。 自然閉経以外にも,産褥期・授乳期の低エストロゲン状態,早発卵巣不全,手術療法・放射線療法・化学療法などに伴う卵巣機能の低下,抗エストロゲン作用をもつ薬剤の使用などに診療フローチャート 萎縮性腟炎の治療の流れをフローチャートで示す(図2)。問診・診察 55~65歳の欧米人女性の約40%が腟萎縮症状を自覚しているが,そのうち70%は医療者とその問題について話し合わない,という報告があり4),日本人女性ではこの割合はさらに高いと考えるべきである。症状を訴えない閉経後女性に対しては,機会をとらえて医師側から問いかけてみることも必要である。 閉経後女性が腟乾燥感・性交痛・出血・下部尿路症状や帯下などを訴えて来院した場合には,最も頻度の高い診断は外陰腟萎縮および細菌性腟症であり,診察・検査の主目的はむしろ子宮頸部腫瘍や子宮体部腫瘍を除外することにある。そのことを踏まえつつ,本稿では外陰腟萎縮に限定して記述する。萎縮性腟炎54
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