Ⅰ症候からの鑑別診断露木 香 大須賀拓真 江川美保K. Tsuyuki, T. Ohsuga, M. Egawa 京都大学大学院医学研究科1156疾患の概要 帯下は,① 外陰の皮脂腺・汗腺・バルトリン腺・スキーン腺からの分泌液,② 腟壁からの漏出液,③ 腟や子宮頸管からの剝離細胞や頸管粘液,④ 子宮内膜や卵管からの分泌液,⑤ 感染している微生物とその産生物より構成される。 頸管粘液や子宮・卵管からの分泌液,腟上皮の剝離細胞はエストロゲンとプロゲステロンなどのホルモンにより支配されている。帯下は排卵前後である月経中間期に頸管粘液の増量に伴い増えることが多い。正常な腟内は乳酸桿菌(デーデルライン桿菌)によりpHが3.8~4.5と低く保たれており,病原細菌の増殖が抑えられている。 帯下の増量,悪臭,膿性変化やそれに伴う不快感などの帯下異常は,外来で遭遇する最も頻度が高い婦人科的愁訴の1つである。その原因のほとんどは,感染している微生物とその産生物により構成される感染性帯下が最多で,なかでも代表的なものは細菌性腟症,腟カンジダ症,腟トリコモナス症である1)。高齢者では性感染症の頻度が低下し,萎縮性腟炎,閉経関連泌尿性器症候群(genitourinary syndrome of menopause;GSM)の頻度が増える。一方で,なかには水様性帯下を契機として発見される卵管癌や,血性帯下から診断される子宮頸癌・子宮内膜癌の症例もあり,腟壁や帯下だけでなく子宮や付属器などの評価も適切に行うことが望ましい。診療フローチャート 帯下異常の訴えがあった場合の診療の流れを図1に示す。問診・診察 問診では,異常帯下について色,性状,量,臭いや持続期間,症状の強さなどについて聞く。外陰の掻痒感,疼痛,排尿痛,性交痛,腹痛などの随伴症状について聞くとともに,使用している薬剤や自己治療の経過,性感染症の既往も聞いておく。 視診により外陰の発赤,腫脹,圧痛の有無をみる。腟鏡診では潰瘍,萎縮性変化,発赤の有無をみるほか,腟分泌物の色,量,性状,臭いをみる。必要に応じて帯下を拭ったうえで,子宮頸部の観察も行う。頸管炎所見(子宮腟部の発赤,頸管からの排膿など)のほか,腫瘤性病変やびらんの有無も確認する。内診を行い子宮や付属器の圧痛,子宮頸部の可動痛の有無について確認する。経腟超音波断層法検査では子宮や付属器のサイズや形態の評価に加え,骨盤内の腫瘤や膿瘍の有無も確認する。検査の進め方1) 帯下異常を呈する頻度の高い疾患を表1に示す。帯下異常9
元のページ ../index.html#4