*Junichi SHINDOH, et al. 虎の門病院消化器外科肝臓手術解剖362基本的な肝の解剖学的理解は,肝胆膵外科医のみならず消化器外科医全般に求められる基礎的事項であるが,高難度手術を適切に遂行するためには,より深い解剖学的理解が求められる。本稿では高難度肝臓外科手術に求められる一歩踏み込んだ外科解剖の知識を概説する。国際標準としての肝の区域解剖,術式の名称についてはThe Brisbane 2000 terminology3)を参照されたいが,わが国で一般的に用いられている肝区域,術式の呼称については,区域レベルではHealey & Schroyの理論が,亜区域レベルではCouinaudの理論が用いられていることに注意が必要である(表1)。亜区域の実際の3次元形状や配置は解剖図にあるほど単純ではない(図1)。亜区域どうしの位置関係についても,S2はS3の頭側ではなく頭背側にあり,S3は左肝静脈とumbilical fissure veinの間の領域であるから,S2-S4の間を細く頭側へ伸び出している。また,右肝において横隔膜のドーム下はS7/8ではなくS8であり,最尾側はS6となり,S7は「背側」に存在している。無漿膜野はS7の領域であり,S7/S8の境界は通常,横隔膜から肝臓への腹膜の折れ返り部に一致する。各segmentの容積比には個人差があるが,通常はS1が最も小さく,S8が最も大きい(表2)4)。とくにS8の容積は全肝容積の約1/4を占め,解剖図から想像する一般的なイメージよりもだいぶ大きな領域であることがわかる。大久保悟志* 松村 優*はじめに肝臓の外科解剖進藤 潤一* 橋本 雅司* 1 肝区域現在のわれわれの肝臓外科臨床は,Couinaud1)やHealey & Schroy2)の肝区域理論に基づいて構築されている。これら2つの肝区域理論はさまざまな場面で使用されているが,前者は門脈・静脈解剖を基礎とした肝区域理論,後者は胆道解剖に基づく解剖理論であり,本質的に異なっていることをまず知っておく必要がある。1
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