9章 ❷急性期反応物質(APR)CRP高値も改善しないため紹介転院した. 身体所見:体温38.7℃.一般状態:活気はやや低下しているが比較的良好.皮膚:乾燥,Turgor正常,発疹なし.眼球結膜:充血あり.咽頭:発赤なし.口腔:乾燥.頸部:リンパ節腫大なし.胸腹部:異常なし.四肢:異常なし.項部硬直なし 検査所見:白血球数46,570/μL(好中球96%),ESR 128 mm/hr,CRP 28.5 mg/dL,SAA 200μg/mL,PCT<0.06 ng/mL.考え方・判断方法・次に何をすべきか 遷延する発熱と著明なCRPの上昇を認め,一般的には重症細菌感染症が疑われる状況である.しかし,入院時の一般状態が比較的良好であり,また濃厚な家族歴と幼少時から同様の発熱のエピソードを繰り返しているという既往歴より遺伝性周期性発熱症候群,なかでも発熱期間が長いことからとくにTNF受容体関連周期熱症候群(tumor necrosis factor receptor-associated periodic syndrome:TRAPS)が疑われたため,血液培養は採取したが,抗菌薬は使用せず,輸液のみで経過をみた.周期性発熱症候群の患者は,発熱発作時に強いAPRの上昇を伴うことから,細菌感染症の反復として,抗菌薬が用いられ,抗菌薬が奏功したのか,自然経過の解熱なのかが判断できないことが多い.周期性発熱症候群の診断を行ううえでは,抗菌薬なしで自然に解熱することを確認するステップが重要である.このケースは遺伝子解析の結果,TNFRSF1Aに変異を認めTRAPSの確定診断に至った1). 主訴:発熱,下痢,嘔気 家族歴:特記すべきことなし. 既往歴:1歳半頃より発熱が頻繁にみられるようになり,細菌感染症を疑われて年2~3回の入院加療を受けた.4歳頃より3~6日間続く発熱が約4~6週間隔でみられるようになった.発熱時は,腹痛,嘔吐,下痢,頭痛などを伴い,診察で扁桃炎と頸部リンパ節の腫れを指摘され,血液検査でAPRの上昇がみられた. 病歴・経過:3日前より発熱,嘔気,左下顎リンパ節腫脹を認め,2日に全身倦怠感強く前医に入院.その後も嘔気が強く,また39℃台の発熱が持続するため,紹介転院した. 身体所見:体温38.5℃.一般状態:活気低下し不良.皮膚:やや乾燥,皮疹なし.口腔:咽頭発赤あり,白苔を伴う扁桃腫大あり,口内炎2個.頸部:両下顎角直下に圧痛を伴う母指頭大のリンパ節腫大あり. 検査所見:白血球数11,130/μL(好中球73%),ESR 54 mm/hr,CRP 9.6 mg/dL,PCT<0.06 ng/mL.考え方・判断方法・次に何をすべきか 1歳時から発熱のエピソードを繰り返しており,発熱は3~6日間続き,約4~6週の比較的規則的な間隔でみられること,発熱時の血液検査でAPRが上昇していること,発熱時に白苔を伴う咽頭炎扁桃炎,口内炎,頸部リンパ節腫大がみられることから,周期性発熱症候群の1つであるPFAPA症候群(syndrome of periodic fever,aphthous stomatitis,pharyngitis,and adenitis)が疑われる.前述のTRAPSのケースと同様,抗菌薬なしで自然に解熱することを確認することが診断を進めるうえで重要であるので,全身状態をみながら,CRP高値であっても抗菌薬を使用せず,外来または必要に応じて入院で経過をみることが必要である.また,発熱時にPCTが上昇しないことは,本症や周期性発熱とCRP高値が重症細菌感染症によるものではない場合②1580症例 患者:5歳,女児
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