理学所見:眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄染なし 初診時検査所見:WBC 5,100/μL,RBC 590万/μL,Hb 11.9 g/dL,Ht 38.4%,MCV 65.1,MCH 20.2,MCHC 31.0,Plt 22.0万/μL 追加の検査所見:網赤血球15‰,赤血球像 標的赤血球あり,Hb分画:HbA2 4%,HbF 1%,HbA 95%,血清鉄85μg/dL,フェリチン117 ng/mL,TIBC 270μg/dL. Mentzer index=MCV/RBC(×106)=11.0 WHOによる12~15歳の貧血の基準値(12.0 g/dL以下)をわずかに下回る小球性貧血である.血清鉄,フェリチン,TIBCは正常であり,鉄欠乏性貧血は否定的.サラセミアが鑑別疾患の上位に挙がる.わが国で経験するサラセミアは,貧血の程度は軽く,MCVが極端に低く(60 fL台),RBCは軽度増加するという特徴をもつ4).日本人における発生頻度は,βサラセミア1/1,000名,αサラセミア1/3,500名程度と決してまれではない.多くは軽症型であるため,見逃されたり,鉄欠乏性貧血と誤診されている例も多い.とくに罹患率の高い東南アジア出身者を診療する場面では注意を要する.サラセミアを疑った場合,鉄欠乏性貧血とサラセミアを鑑別するために用いられる指標としてMentzer indexがある.本値が13以下の場合にはサラセミアの可能性が高いと判定できる5). サラセミアでは,αまたは非αグロビンのどちらか一方の生産量が遺伝的に低下し量的アンバランスをきたし,四量体を形成するサブユニットが減少することから,赤血球中のHb含有量は低下し,小球性貧血となる.本症を疑った場合には,Hb組成分析,遺伝子検査(保険適用外.専門医療機関,福山臨床検査センター,かずさDNA研究所など)が行われるが,ほとんどが軽症で日常生活に何ら支障がないため,軽症サラセミア疑いのままで経過観察を行うこともある2). 患者:1歳,女児 現病歴:褐色尿を主訴に受診.重度の貧血と蛋白尿・血尿を認め,高次医療機関へ紹介された. 理学所見:眼瞼結膜貧血,褐色尿,活気不良. 前医初診時検査所見:WBC 6,800/μL,RBC 180万/μL,Hb 5.8 g/dL,Ht 19.8%,Plt 6.0万/μL,CRP 0.02 mg/dL,尿検査:Pro 3+,OB 3+. 追加の検査初見:赤血球像:破砕赤血球2.5%(基準値<0.12%),TP 4.1 g/dL,Alb 2.1 g/dL,AST 290 IU/L,ALT 55 IU/L,LDH 2,100 IU/L,T-Bil 1.7 mg/dL,BUN 45 mg/dL,Cre 1.5 mg/dL(1歳の基準値0.23),Na 144 mEq/L,K 5.5 mEq/L,Cl 107 mEq/L,ハプトグロビン8.0 mg/dL(基準値19~170),直接クームステスト 陰性,尿沈渣RBC 5~9/HPF,WBC 1~4/HPF,尿Pro 683 mg/dL,尿Cre 19 mg/dL,尿β2MG 21,000μg/L. 溶血性貧血,腎機能障害から微小血管障害性溶血性貧血(microangiopathic hemolytic anae-mia:MAHA)を疑い,病因検索のため,さらに追加検査を実施した.PT 10.7秒(基準値9.8~12.1),APTT 34.2秒(基準値24~39),Fbg 306 mg/dL,D-dimer 1.3μg/mL,C3 32.0 mg/dL(基準値86~160),C4 17.8 mg/dL(基準値17~45),CH50 32 U/mL(基準値30~45),ADAMTS13活性82%,便中O157抗原 陰性.微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)の鑑別―aHUSの場合14164章 ❷赤血球検査鑑別診断の考え方解説症例鑑別診断の考え方
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